本研究は、女性の自然科学分野における進出過程とジェンダー境界線の変化について、イギリスの大学を事例に歴史的観点から考察することを目的とする。最終年度においては、19世紀末から20世紀前半にかけて自然科学研究の世界的拠点となったケンブリッジ大学に焦点化し、女性のアカデミックスタッフとしての参入過程とそれに伴って生起したジェンダー・コンフリクトを検討した。 研究期間全体にわたり三度の現地調査を実施し、とくに女性高等教育運動の中心地でもあったケンブリッジ大学に着目して、女性の自然科学分野における教育研究活動の拠点となったバルフォア研究所やニューナムおよびガートンの両女子カレッジに関する一次史料を入手した。平成24年度は、両カレッジの卒業生名簿や優等卒業試験合格者に関する資料の分析を通して、自然科学を専攻する女子学生たちの出自や進学動機、卒後のキャリア等に関する動向を明らかにし論文として公表した。平成25年度は、医学分野に焦点を移し、女性医師パイオニアの足跡を、自伝、伝記、女子医学校の年報等の資料を基に検討することで、アメリカやインドなどトランスナショナルな影響関係を考察し、その成果を公表した。 最終年度では、ケンブリッジ大学における女性の自然科学分野への進出を、大学改革および自然科学研究の進捗過程との関連において考察することを目標におき、大学史等を基に同大学における自然科学研究興隆の要因とその内的構造、および代表的な男性科学者の女性研究者への処遇と背後にある女性観を検討した。また当該時期における代表的な女性科学者の伝記分析を通して、自然科学研究に志した動機や研究者としてのキャリア、学問界における貢献、男性研究者との協働と対立の関係を分析することにより、女性の自然科学分野進出を背後で規定したジェンダー力学のダイナミズムを明らかにし、学会発表および論文により公表した。
|