本研究の目的は、知的財産権の権利化をめぐって大学の規範や組織文化にいかなる変化がもたらされたかを、長期的視野から探求することにある。前年度は、ウィスコンシン大学研究同窓会財団(WARF)の設立(1925年)経緯を解明した。本年度は、その後の展開を探求し、今日にいたる発展経緯を解明した。WARFは、大学発特許のライセンシングによって世界恐慌期にも豊富な研究資金をもたらした。第二次大戦後も柔軟な資金運用によって優秀な人材を確保して大学の成長を牽引し、地域経済の発展を導いた。けれども、排他的ライシングが反トラスト法に抵触するとして提訴されたほか、投機的な投資活動やリゾート開発への関与が非難の的となった。また、高価なロイヤリティを賄える大企業は潤うものの、零細企業が恩恵を受けることはできず、公共性を損なうと批判された。WARFは、数々の批判にさらされたことから、1970年代以降、自ら組織改革を行い、連邦政府および科学コミュニティに働きかけ、バイドール法成立に寄与していった。今日のWARFは、バイオテクノロジーの研究成果を社会に発信するために、技術移転のワン・ストップ・サービスを提供するとともに、多様な教育プログラムを幅広い人々に開放しているように、研究成果の社会的意義を再考する機会を提供している(『大学史研究』第26号、『研究倫理の確立を目指して』第3章)。 上記の歴史研究に加えて、大学と社会の双方向関係によって知識生産を促進する「エンゲージメント」という概念を戦略的ビジョンに掲げるサイモン・フレイザー大学(カナダ)の地域連携事業の調査報告を論文にまとめた(『アカデミア』第8号)。また、海外調査によって、戦間期研究に関する今後の研究の発展的可能性を確認し、その成果の一部を口頭発表した(日本教育学会口頭発表、2014.8.21)。
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