研究課題/領域番号 |
24530987
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
中田 スウラ 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (20237291)
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キーワード | 学習コミュニティ / 東日本大震災 / 地域再生 / 地縁組織 / 生涯学習 / 社会教育 |
研究概要 |
東日本大震災から三年が経過し、東北の各地域社会が抱えている諸課題は、震災以前からの諸課題もあり、複雑化している。地方分権化政策のもと展開されてきた市町村合併と自立的自治体経営の確保を目指す地域コミュニティの再編・形成方策が大震災からの復興の過程でどのように機能しているかと言った視点を含み、今日的被災地の状況を確認し、必要とされる協働的市民社会を支える住民の成長を図ることは急務とされている。そうした課題に応える生涯学習活動とその基盤となる住民参画型生涯学習施設の可能性を地縁組織(地域住民組織)との連携の視点から検討を進めている。 具体的には、前年度に引き続き、東日本大震災が東北・福島に原発震災を含みどのような影響を与えているかに関して、2013年度の「復興ラウンドテーブル」や「復興教育シンポジウム」、「おたがいざまセンター」等を手掛かりに把握するとともに、双葉八町村に着目しながら現地踏査を継続し、資料収集等も展開している。 その結果、震災地で徐々に変化があることも確認される。田村市都路地区の避難指示解除が2014年4月1日付で解除される方向性が示されるほか福島県内の一定の放射能除染作業が進むことや農作物の出荷停止品目が減少するなどの改善状況もみられている。しかし他方で、各地域の復興状況には次第に格差が見え始める現状もある。こうした状況を踏まえ、双葉郡からは震災の風化を危惧する声も発せられている。双葉郡では地域復興を教育復興を一つの核としながら展開し始めており、「双葉郡教育復興ビジョン」をまとめ「中高一貫校(2015年4月予定)」の開設準備に着手しているが、同時に同学校に住民の生涯学習・社会教育施設を併設することを計画している。生涯学習・社会教育施設を住民参画のもと計画し住民の学習コミュニティの形成を進め、それを地域の再生に繋げようとする意図を確認できる。示唆的な事例と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
福島県の震災影響は原発震災によるところが大きく、現地踏査やヒアリング等を展開するにも十分な配慮が必要であり、対象者等との信頼関係を築く上で勢力を要した。そのため、研究を進める際の対応方法の工夫が必要となった。調査票等による悉皆調査も検討していたが、被災者と被災経験を共に振り返りながら浮上している課題を探るといったラウンドテーブル等による対話的な対応を中心とする改善を進める必要があった。 ただ、研究を支える状況の変化も見られ始めている。震災直後は社会的混乱状況が多かったが、三年が経過し大震災後の影響に関わる資料等の公表も一定進んでいる。各自治体の行政機能も復調し始め、住民や自治体が徐々に当時の状況や震災の影響を対象化し情報提供する状況も現れ始めた。 その結果、生涯学習・社会教育関連施設が大震災直後の地域で支援を支える機能を担う主要な機関の一つとして対応した姿を確認できた。また避難により町内会等の住民組織を維持することが困難な状況の中で、住民がコミュニティの再生を図るために同様の機能を持つコミュニティ施設を開設し運営していることも確認できる(富岡町「お互いざまセンター」)。加えて、双葉郡では、将来の地域を担う子どもの教育に関して八町村が連携し「中高一貫校」の開設に向けて準備を進めている。その過程の中で、生涯学習・社会教育施設を学校とともに開設することも計画されている。住民自身が地域を担う主体的・協働的住民としての力量形成を必要としており、その基盤となる学習コミュニティの形成を支える教育・学習条件の整備は必要不可欠となっている。その際の特徴の一つとして、NPO等との多様な社会的諸機関との連携が視野に収められている。改めて、そこにも地域復興・再生に果たす生涯学習・社会教育施設の役割の重要性と、住民(地域地縁)組織の再生を開かれた社会的連携の下で展開しようとする方向性を確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究とその取り組みにより、双葉郡教育復興を推進するためのWGやその教育復興ビジョンを具体的に実施するための準備WG等への参加の機会を確保することができた。また、復興支援を進めるための対話的ラウンドテーブルの参加により、被災者の被災経験のヒアリングの結果も一定程度確保することができた。さらに、双葉郡の子ども・保護者・教育関係者が描こうとしている教育復興の方向性とそれを実現するために生涯学習・社会教育関連施設の開設を計画していることも確認することができた。 これらの各自治体・住民との関係づくりの成果や地域の状況変化を基盤に、今後も研究を進める。その際には、被災者の課題に寄り添いながらその解決に向けた協働的理解者として研究推進を図る方法を工夫は今後も必要となる。住民は被災の経験をまだ振り返り対象化すること自体が困難な場合も多く、被災の経験を交流し今後の地域課題の把握を進める協働的理解者としての関係を確保し、住民の学習コミュニティの形成を支えることも研究を進める上で重要となる。 具体的には、各自治体や教育関係機関、住民等から発信される文献・資料、報道関係資料の収集を継続する。同時に、これまで収集してきたヒアリングを中心とする調査および現地踏査を継続する(富岡町「おたがいざまセンター」、双葉郡教育復興を推進する関連WG、双葉郡教育復興推進協議会「子ども未来会議」、双葉郡「ふるさと創造学」等)。また、それら収集した情報等の整理を進めていく加えて、調査票による悉皆調査も関連機関等と相談しながら実施できるよう検討を継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に管理職を務めていたことによる影響および東日本大震災発生後の翌年という社会的混乱期にあって資料及び情報を各自治体等や関係者から収集することが困難であったことによる影響が当該年度にも残っている。福島県が抱える東日本大震災による課題は原発震災によるものが大きく、風評被害も含め深刻なものである。そうした深刻な被災状況を把握するには十分な配慮が必要であった。調査票等による悉皆調査も計画したがその実施及びその時期等に関する再検討が必要となった。具体的には、研究方法を被災の経験を交流し対話的に省察するラウンドテーブルを展開させる他、関係自治体WGへ参加し工夫した。その結果使用計画に一部変更が生じた。 各自治体・住民との関係づくりの成果や地域の状況変化を基盤に、各自治体や教育関係機関、住民等から発信される文献・資料、報道関係資料の収集を継続する。同時に、これまで収集してきたヒアリングを中心とする調査および現地踏査を継続する。また、それら収集した情報等の整理を進めていく(富岡町「おたがいざまセンター」視察、双葉郡教育復興を推進する関連WG(計13回)、双葉郡教育復興推進協議会「子ども未来会議」(計7回)、双葉郡「ふるさと創造学」、復興ラウンドテーブル、教育復興シンポジウム等)。加えて、調査票による悉皆調査も関連機関等と相談しながら実施の検討を継続する。これら研究推進のための諸経費に充当させる。
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