研究課題/領域番号 |
24530987
|
研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
中田 スウラ 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (20237291)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 学習コミュニティ / 東日本大震災 / 地域再生 / 地縁組織 / 生涯学習 / 社会教育 |
研究実績の概要 |
今日的被災地の状況を確認し、各地の震災復興に必要とされる協働的市民社会の再形成とそれを担う住民の成長を図ることは急務である。そうした課題に応える生涯学習活動とその基盤となる住民参加型生涯学習施設の可能性を、地縁組織(地域住民組織)との連携を視点とし追究することもまた喫緊の課題であり、本研究の課題意識もそこにある。 大震災の特徴は、地震・津波・原発事故という人類が初めて直面する複合災害にある。福島県では、放射性物質による環境・食品・人体への影響、社会的・経済的影響(農業・漁業・観光業等)は継続し、住民の避難・風評被害が続いている。この風評被害は深刻であり、地域の復興計画や帰還動向にも影響を与えている(東北の社会教育実践の動向収集、双葉郡教育復興協議会調査等)。その結果、暮らしと生業の回復は図られず「過疎と高齢化」問題を加速化させ、大震災前から地域に内包されていた産業構造や人口動態をめぐる諸矛盾を激化させている。 この間の研究を通して、放射性物質をめぐる「基準値」が示されてもその科学的知見が住民の行動を変える「安心」には直結するものではなく、「基準値」が行動の「判断」基準へと展開する過程の解明こそが重要だと確認された。換言すれば、「科学的知見」を生活者自身が確かめ検証し、困難な地域課題に対応する「解」自体を主体的・共同的・協働的に創造する過程こそが重要となる。この過程は、地域社会の将来像を探究する共同的・協働的な学習コミュニティの形成と重なりあい展開されることにより可能となることもまた確認された(震災復興ラウンドテーブル、子ども未来会議、ふたば未来学園高校等の開設準備過程調査、双葉郡教育復興協議会コミュティ拠点施設設立検討委員会調査等)。 震災復興は、住民による学習コミュニティとそれを支えるコミュニティ拠点施設の形成に支えられ、初めて「持続可能な社会」への道程を確保することができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
福島県の震災影響は人類が初めて直面する複合災害によるところが大きい。また、原発震災による避難指示や保障をめぐる対応等が、地域住民や家族の分断化を進める面もあり、現地踏査等を展開する際にも十分な配慮が必要とされた。当初は、調査票等による悉皆調査も視野にいれ準備を進めたが、大震災後、多様な調査が国・県・研究機関・団体等から被災地にはなされており、避難状況下で十分な行政機能を回復できていない各自治体には疲弊も見られた。これらにより、調査方法及び調査時期等の再検討が必要となった。 さらに、こうした判断の背景には刻々と進む双葉郡の状況変化もある。平成26年度には、大熊町・富岡町では放射性物質の「中間貯蔵施設」受入も確認された他、新たに楢葉町も帰還宣言がなされ、葛尾村でも28年4月を目処とする帰村計画が進行中である。最近のこうした帰還計画は避難地域の除染作業及びそこでの生活再開に向けたインフラ整備計画の策定と具体化を急がせている。ようやく、地域コミュニティの再形成の動向が本格化し始める時期を迎えており、こうした段階を迎えてこそ、地域コミュニティの再形成とそれを可能とする住民による<学習コミュニティ>の形成は活性化し、生涯学習施設・社会教育施設等の機能を必要とするものとなる。実際、双葉郡では、地域の震災復興を、双葉郡に新たなアクティブ・ラーニングを基本とする「ふたば未来学園高等学校」(県立)の開設(平成27年4月)により同時に進めようとする動きが始まっている。加えて、同高校は「地域コミュニティ拠点施設」の併設を検討している。それは、双葉郡の各自治体の住民が地域復興をめぐり展開する生涯学習活動の拠点として機能する施設とされている。さらに、同校と連携する「双葉郡学校支援地域本部」等の創設も各自治体の学校機関に開設される予定である。こうした新たな動向を研究に効果的に反映させる必要があった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、双葉郡教育復興の推進状況を中心に把握してきた。原発事故を伴う東日本大震災により避難を余儀なくされた福島県双葉郡においては、双葉郡教育復興推進協議会が、地域の震災復興の展開を教育復興にその基盤を求めながら押し進め、「双葉郡教育復興推進ビジョン」を作成してきた(平成25年7月)。その後、同協議会は「双葉郡教育復興ビジョン推進協議会」として名を改め、ビジョンの具体的展開に着手している。そうした展開過程の特徴は、地域社会の未来創造を未来型創造教育の推進により実現しようとする点に見られ、そのために、「未来会議」というアクティブ・ラーニングによる課題解決学習が積極的に導入されている。「未来会議」では、子ども・大人・学校・教育関係者が参加し地域の未来とそれを可能とする教育の新しいあり方を検討し、それを「ふたば未来学園高等学校」(福島県立)の開設および教育課程につなげ具体化している。さらに、同高校では「地域コミュニティ拠点施設」の併設が検討されており、この施設計画を準備し検討する「地域コミュニ的拠点施設検討委員会」も設定されている。同施設は、双葉郡の各自治体の住民が地域復興をめぐり展開する生涯学習活動の拠点として機能する施設とされている。同時に、同校と連携する「双葉郡学校支援地域本部」の創設も各自治体の学校機関を中心に予定されている。それは、各自治体の小学校・中学校で推進されている<ふるさと創造学>を介し、「ふたば未来学園高等学校」との連携を促進する組織である。 以上に見られる、新しい震災復興と教育復興の展開状況を整理する。それを通して、震災復興を進める住民の共同的・協働的な<学習コミュニティ>の形成過程における生涯学習活動とそれを支える生涯学習関連施設とも言える<コミュニティ拠点施設>の計画・機能等を検討し今後の研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
東日本大震災で特に甚大な被害を福島県は受けている。原発震災による影響は甚大であり双葉郡を中心とする避難状況は続いている。地域コミュニティの危機的状況が、避難の長期化・分散化・遠方化によりもたらされており、行政機能の維持と回復も十分ではない。この状況下では、多くの双葉郡の生涯学習・社会教育活動は十分な展開を見せる段階に至っておらず、なんとか社会教育委員会等の再組織化を進める段階にあることが確認され始めている。公民館等の生涯学習・社会教育施設の機能の回復が不十分である現状と課題を把握することに注力している。悉皆調査等の計画が遅れている。
|
次年度使用額の使用計画 |
双葉郡を中心とする中間貯蔵施設の受入や帰還政策等の動向も注視していく。地域コミュニティの再生を支えるために、双葉郡が構想している「コミュニティ拠点施設」は住民にとっての生涯学習関連施設としての機能を持つものとして、その建設が検討されている。地域コミュニティの再生と学校教育ならびに生涯学習の再生を同時に進めようとする「ふるさと創造学」の開始といった新しいアクティブ・ラーニングも開始されている。双葉町教育委員会においては「生活学習」等が震災後も展開されていた事実も確認された。 こうした新しい動向は貴重である。これらを視野に入れ、震災復興を進める地域コミュニティの再生とそれを支える共同的・協働的な住民の成長を可能とする生涯学習関連施設の機能等について調査・研究を継続する。関連する情報・図書の収集及び整理も継続する。これら研究推進のための諸経費に充当させる。
|