東日本大震災は地震・津波・東北電力第一原子力発電所事故を伴い被災地域に甚大な被害を与えた。大震災後の地域社会の再生・復興にとって不可欠な地域課題、すなわち自立的自治体運営とそれを支える新たな地域コミュニティの形成という地域課題が急浮上している。こうした協働的市民社会の構築はそれを担う住民・市民の成長を必要とするが、住民自身の成長を地域コミュニティの再形成に重ねながら確保する上で重要となるのは、それら両者を往還させ進展させる社会教育実践と言える<学習コミュニティ>の形成であると確認できる。大震災が東北の各地に与えた被害は甚大かつ多様であり、東北全体の状況を一様に把握することは難しい。だが、原発事故を伴う大震災が地域社会に与えた被害・影響を最もよく表すのは、今日でも原発事故による避難生活が続く福島県双葉郡であり、同郡は大震災の「縮図」とも言える。双葉郡では、「双葉郡教育復興ビジョン」(2013年7月)が作成され、双葉郡の将来の担い手育成を図る教育復興と地域復興を同時に推進することが表明された。具体的には、未来の持続可能な社会創造に向けた実践的な課題解決学習を積極的に取り組む「中高一貫校」の学校(教育)創りについて探究する「子ども未来会議」が郡をあげて開催された。子ども・保護者・教員も同会議に参加することを通して、教育と地域社会の復興過程に参画し、教育と地域コミュニティの未来を創造する<学習コミュニティ>を形成するとともに地域を担う自らの主体形成も進めている。最終年度の研究では、「子ども未来会議」の議論から双葉郡独自の教育として展開されている「ふるさと創造学」が新たな「地縁性」を獲得する機能を果たしていることを確認した。また、こうした「未来会議」(学習コミュニティ)が、福島の復興を進める「福島復興公民館大学」の実践として共有されていることや県内の他公民館の動向等も確認した。
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