本研究は、戒厳令解除(1987年)以降、教育の民主化を求めて教育改革を成功させた台湾を対象として、以下のことを中心にその成功の要因と課題を明らかにした。1.教育の民主化がどのような政治的・社会的背景の中で政策化されたか。そこに政治的要因(政権交代)や社会的要因(地域の住民自治運動)はどのように影響を与えたか。2.教育の民主化を価値原理として教育の自由化を成功させた教育改革の方法の特性と社会的実態はどうであるか。特に教育の市場化との調整はどのように働いたか。3.教育の自由化における民主化と市場化の二元性・両極性はどのように止揚できたか。 以上を通じて、1については、国民党政権による国家主義的統治の象徴であった「戒厳令」が解除(1987年)されて後、政治の民主化を掲げる野党・民進党が政権交代により進めた教育改革の政治過程及び政策過程を当時の政治及び政策関係文書を分析し、政権交代による教育の民主化政策の特性を明らかにした。2については、「四一〇デモ」により設置され、その後「教改一〇年」と言われる90年代の台湾の教育改革を方向づけた「教育改革審議委員会」の審議経過とその答申である「教育改革総議報告書」(「白書」)を分析し、教育の民主化のための制度設計の構想を明らかにした。3については、本研究の最終的な研究目的として、1及び2の実証的分析を通じて、教育の自由化を構成する「民主化」と「市場化」の二つの原理思想がどのように対比的な特性を持つか。さらに、学校の民営化を対象に学校設置権や学校選択権の保障を価値として、「市場化」の中に「民主化」の方法的価値を具現化できる可能性は何かを明らかにした。
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