研究課題/領域番号 |
24531028
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
笠井 尚 中部大学, 全学共通教育部, 教授 (10233686)
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キーワード | 学校施設 / 教育行政 / 学校経営 / 学校統廃合 |
研究概要 |
(1)フィールドワーク関連:愛知県犬山市において、設計指導を行った犬山市立羽黒小学校が竣工した。今年度においては、外構工事(中庭等)を中心とする実施支援を行った。また、これに伴う子どものワークショップを計画・実施した。中庭は、先に子どもたちの意見を取り入れて練った構想を実現させた。予算の制約によって制限された側面もあるが、学校の財産を活かしながら空間を刷新した。ここまでの学校改築事業は、教育委員会や学校の意図を多くの点で活かしてきており、この成果を踏まえて、市内の次の学校改築にむけてのプロジェクトが並行して開始された。今年度実施したワークショップは、学校の当事者としての子どもや保護者、教員の参加を得て、新しい学校にユーザー自身の手を入れる意図がある。設計者との協力により実施した。ここでの実践を踏まえて、同設計事務所とのコラボレーションにより、他校の設計において行われる次期の同様の取り組みにつなげることとなった。 (2)学会関連:昨年度の日本学習社会学会大会においてその一部を報告した、地域住民による学校経営参加の形態としての学校施設建設の状況についての分析が『日本学習社会学会年報』に掲載された。 (3)出版等:教頭の役割について総合的に図式化した書籍の中で、学校施設のマネジメントについての整理を発表した(笠井編著『教頭のフットワーク・ネットワーク』)。東日本大震災をめぐる学校の危機管理対策に関してまとめたもの(笠井「学校の危機管理と教育法」)が、篠原編『教育のための法学』の第12章に掲載された。学校の設計をめぐる関係者間の交錯する意図についての考察を、建築ジャーナル誌(6月号)に発表した。この成果は、学校事務職員の人材養成をテーマとした研修会講演の内容に活かすことができた(8月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外調査を実施することができなかったが、海外事例についての講演会・シンポジウムに2度参加することができたため、貴重な情報を収集することができた。今年度の国内調査においては、北海道および紀伊半島のすぐれた学校施設についての情報収集が行えた。 新たに、2件、設計者と協力して、学校設計プロセスに参加することになった。次年度より、本格的に実務が開始される。(1)三重県S市において、海に近い小学校5校を統合し、高台に統合小学校の校舎を新設する設計プロポーザルにおいて、K社の設計チームに協力し、「地域・防災学習室」の設置を提案した。この提案を含め、K社案がプロポーザル審査において、審査員から高く評価され当選したので、今後、この計画に関わることになった。(2)愛知県S市の小学校4校統合新設の設計業務に携わっているT社の設計チームに協力して、教職員を対象とするワークショップの企画・運営にかかわることとなった。この学校での設計支援活動は、人口減少地における学校統廃合と、小規模校としての特性を活かす戦略的プランニングを可能にするための研究・実践となる。 ここでは、設計者とユーザーの間に生じている齟齬の克服、防災に関する教育学習活動を支援する学校施設の考え方、地域と密接にかかわる学校施設の計画・建設・運営、といった、これまでの研究成果をフルに活かした提案や企画を展開する。(1)のプロポーザルの結果に見られるように、本研究者らの企画・提案が、行政の戦略上の判断において、一定の評価を得た点でも研究は進展したと捉えている。来年度以降、これまでの研究対象に加え、この2つの地域での実践的研究を行う。
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今後の研究の推進方策 |
(1)次年度の以降のフィールドワークにおいては、2つの地域が加わった。大きく分けると4つの拠点で、学校の設計あるいは施設運営のプロセスに関わる実践研究を進める。 ①犬山市では、次期のG小学校の改築が始まっている。今年度は、前段階としてのアプローチ部分の改造および取り付け道路の計画が進められた。来年度は、設計発注に向けての基本構想案を策定するため、学校ヒアリングを進め、教委と協力しながら改築プランの検討に入る。②三重県S市では、地域(関係者)ワークショップの企画・実施における専門的知識の提供がK社から求められている。これは、教委との関係構築を含めて、統合小学校の具体的な設計を進めるための地域の調査を含んで、提案で受け入れられた戦略的な教室設置の実現を進める実践となる。教委や地域の取り組み姿勢についても、まだわからないところが多いため、まず、その情報収集から始める。③愛知県S市の学校設計支援では、すでに地域についての調査を始めた。次年度には、設計者と協力して、教職員のワークショップを具体的に構築・実施し、その成果を設計に活かす取り組みを行う。ワークショップは、地域との情報交流や設備に関する情報収集など、6つの枠組みで計画中である。④高山市における実践は、学校施設運営の点では、必ずしも大きく進展していないが、そこで得られている情報収集の成果は、他の地域での実践(②や③)にすでに活かされている。他地域の学校建設で計画される施設設計の成果を、逆方向になるが、高山の実践においてフィードバックしていきたい。 (2)国内および海外の事例調査を継続する。フィールドワークでの設計実践に資するような、優れた学校施設事例について、広く情報を収集したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外調査を実施しなかったため。海外事例に関する情報収集は、海外学校施設についての講演会・シンポジウムに参加することで補った。 海外調査については、次年度において実施を予定している。なお、国内調査の成果が上がっているため、今後、当初の予定以上に国内調査に力を入れたい。また、実践研究に取り組むフィールドが増えたため、そちらに要する旅費等にも費用を振り向けたい。
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