研究課題/領域番号 |
24531036
|
研究機関 | 大阪樟蔭女子大学 |
研究代表者 |
村井 尚子 大阪樟蔭女子大学, 児童学部, 教授 (90411454)
|
キーワード | 教師教育 / 教職の専門性 / 教育的タクト / リアリスティック・アプローチ / リフレクション / カナダ・オランダ・アメリカ |
研究概要 |
平成25年度の研究内容に関して、理論面と実践面に分けて以下に詳述する。 1.理論面での検討:(1)ヴァン=マーネンがヘルバルトやムートの影響を受けつつ、独自の概念規定を行っている「教育的タクト」について、その独自性と教員養成に資する意義の検討を行った。彼は現象学的な視座からの「教育的タクト」の探究を行っているが、その特徴が最も端的に示されているのが「コンタクト」概念において「教育的関係」のあり方を基礎づけている点である。『大阪樟蔭女子大学研究紀要』においてこの2点に関する論考を発表した。(2)さらに理論的検討を進めるうち、「教育的タクト」は連続的な修練による習慣化と、非連続的な経験によって育成されることが明らかとなった。連続的な修練には、日々の教育実践へのリフレクションと子どもの生活世界への現象学的探究との二つの方途があると考えられる。今年度は「連続的な過程と非連続的な経験におけるタクトの養成」についてデンマークで行われたIHSRC32回大会で発表した他、生活世界の探究に関しては「子ども期の秘密」について『大阪樟蔭女子大学附属子ども研究所・子ども研究』で発表した。 2.実践の検討:実習生や現職の教員が、日々の実践において具体的にどのような仕方でリフレクションを行い得るかの実証的な検討を行っている。大阪樟蔭女子大学の幼稚園・小学校教諭養成課程で授業および沖縄キリスト教短期大学の授業でコルトハーヘンのALACTモデルを用いたリフレクションを試行し、振り返るための題材として学生が経験した「教育的契機」の記述および「エピソード記述」が有効であるとの知見を得た。この成果は日本乳幼児教育学会および韓国で行われた環太平洋乳幼児教育学会2013年度年次大会で発表した。さらに、現職の小学校教員にこの方法論を学んでもらうために、「教師教育ネットワークメールマガジン第12号」において発信した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画を立てた当初においては、現象学的な記述によるリフレクションとリアリスティック・アプローチ、およびタクト豊かな教師の育成とリフレクションとが明確に関連付けられていなかったが、コルトハーヘンおよびヴァン=マーネンのリフレクション概念に関して理論面での研究を続けつつ、学生への授業の中にリフレクションを導入し、実践を行っていく中で、上述のようにその連関が次第に明らかになってきたことは大きな成果であると考えられる。また、理論研究と実践研究の双方を国内外の学会や教師教育学研究会で報告・発表、さらに大学紀要、メールマガジンなど様々な媒体で発信したことで、現職の小学校教員や教員養成に携わる人々からこの方法論の意義に関する共感を得ることができ、共に教育研究を続けて行く仲間が増えてきている。さらに、子どもの生活世界への現象学的探究の一環として「子ども期の秘密」についての理論的な考察はほぼ終了した。 ただし、教育的契機の記述とエピソード記述の異同の精査についての研究の他、リフレクションの概念の規定に関してもまだ不十分な点が残されている。さらに、「タクト」を「臨床の知」、「身体知」、「フロネーシス」との関連で哲学的に検証する作業は緒に就いたばかりでさらなる研究が必要である。 なお、当初の計画からの異同は以下のとおりである。1.ヴァン=マーネン氏への取材、調査はカナダ、ヴィクトリアB.C.の氏の居宅からデンマークでのIHSRCの会場に場所を変更した。さらに、同所で口頭研究発表を行った。2.コルトハーヘン氏のワークショップに参加するためにサンフランシスコに出張した。3.韓国で行われた環太平洋乳幼児教育学会でポスター発表を行った。4.研究協力者も別途科学研究費を受領していることから、平成25年度は謝金を支払わなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本研究計画の最終年度に当たり、まとめの意味も含め以下のように研究を行っていく予定である。 1.「エピソード記述」と「教育的契機の記述」の関係について研究を行う他、「リフレクション」概念についての再検討を行う。研究成果は国内の雑誌に投稿・発表していく。2.学生の実習や教員研修の場に「リフレクション」の方法を引き続き導入し、その意義について実証的な研究を行い、インドネシアで行われるPECERA2014年度大会、カナダで開催予定のIHSRC33回大会、玉川大学で開催される日本教師教育学会第24回大会などで発表する他、雑誌紀要への投稿を行う。3.11月に来日予定のコルトハーヘン氏のワークショップに参画し、自らも研鑽を積む他、国内外の研究者、教師教育者との協働関係を強めていく。4.学生や教員が子どもの生活世界を現象学的に探究する方法論を開発していく。「子ども期の秘密の現象学的探究」に関してグループワークを用いた授業実践を行い、日本保育学会第67回大会などの学会発表、雑誌紀要への投稿を行う。5.メールマガジンでの発信を引き続き行い、リフレクションと現象学的探究を我が国の教師教育および現職研修に広めていく。6.これらの研究成果をまとめていく。 平成26年度の研究費は以下の通り使用を予定している。 1.物品費は主に教育学・哲学関連の書籍の購入に充てる。2.国内旅費は、コルトハーヘン氏のワークショップのための事前勉強会、国内各地で行われる学会への参加の旅費に充てる。3.外国旅費はインドネシアで開催されるPECERAおよびカナダで開催されるIHSRCに参加発表するための経費に充てる。4.人件費・謝金は、コルトハーヘン氏の来日にかかる通訳料などに充てる他、先進的な研究を行っている研究者を招聘し、学内研修会を行う費用に充てる。5.その他は、研究成果をまとめるための費用に充てる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
翻訳などの謝金および研究協力者への謝金の支払いが不要だったため、平成25年度の予算からの支出をせず、結果的に次年度使用額が生じた。 平成26年度には、コルトハーヘン氏の来日の際の通訳などの謝金、および研究協力者への謝金として使用する予定である。
|