本研究は,保育者のワーク・ライフ・バランス(以下,WLB)と保育の質の関係性を検証し,保育者のWLBの実現を通して保育の質を向上させることを目的とするものである。本年度は,1.「学びの基礎力」の醸成に着目した保育の質の調査,2.保育者のWLBと「学びの基礎力」醸成の関係性の調査を中心に実施した。 1.「学びの基礎力」の醸成に着目した保育の質の調査については,子どもの「学びの基礎力」の醸成を目指すために保育者に必要とされる「積極的なかかわり」に着目し,「保育の質の指標」を作成し,検証を行った。併せて,指標の精度を高めるために,保護者を対象にした「積極的なかかわり」と子育てに関する調査も実施した。作成した指標を理解するための研究会を実施し,エスノグラフィーの手法を用い研究対象園で保育の質に係る調査を実施。研究会に参加した保育者は,研究会に参加していない保育者に比すると「積極的なかかわり」と考えられる言葉かけ,行動が保育中増加するという傾向が確認された。保育者が明確な認識を有して保育を行うことで,保育者の行動が変化することが明らかとなった。変化が容易におこる指標と,変化がおこりにくい指標があることも明らかとなった。 2.保育者のWLBと「学びの基礎力」醸成の関係性の調査については,全国の保育者を対象にした質問紙調査を精査し,WLBの満足度の高い保育者は,「学びの基礎力」醸成の指標となる「積極的なかかわり」を多く保育に取り入れられている傾向が明らかとなった。 以上のことから,保育者のWLBの実現は,保育の質の向上させる要因となる可能性を有していると考えられる。
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