研究課題/領域番号 |
24531055
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
周 飛帆 千葉大学, 言語教育センター, 准教授 (80270867)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 家族の異文化適応 / 教育戦略 / 追跡調査 |
研究実績の概要 |
本科研において、筆者はこれまで、異文化社会における家族関係の変容と子どもに対する教育戦略の選択を中心に調査し、その相互関係をある程度明らかにした。これまでの先行研究では、移民における教育戦略の構築に親の価値志向が重要と考えられており、その際、親が日本志向なのか母国志向なのかによって教育戦略が類型化されていた。しかし、本研究は、家庭における教育戦略形成の重要な要素は親の価値志向ではないことを明らかにした。移民家族において、理想とする移住の目的があり、その目的を達成するために子どもの教育戦略を選択している。従って家庭における戦略は価値志向の二者択一ではなく、双方の言語や文化を身につけるための手段として「いいとこどり」のような融合型となる。この傾向は在日家族に限らず、日中間やアメリカへの再移住をする「分散家族」にもみられる現象である。 今年度の調査では、これまでの在日5家族に、アメリカ在住の2家族、日本から中国へ帰国した2家族を新たに対象に加えた。新たに加えた調査対象の家族には、ローカル、ナショナル、グローバルを跨って取る教育戦略にどのような要因が影響し、いかなる結果をもたらしているかを中心に、聞き取り調査を行った。本年度の調査では次の点が明らかになった。 ①家族メンバーの社会適応の実態を、a職業と収入、b地位認識、c言語・文化志向、d心理的満足度に分けて考察すると、現状に対する認識は社会階層と関連性が薄いことが分かった。特に心理的な満足度には準拠集団の存在と、動員資源の多寡が影響を及ぼす。 ②教育戦略の調整は日本の学校における適応現状とその満足度に影響される。問題発生時の情報獲得は公的機関、友人を通して以外に、ネット情報を多用する。戦略を再構築する選択肢に、母国の教育資源の活用と第三国への留学というのがあり、情報獲得ルート、移動コストやその他の資源の存在が実行できるか否かに影響する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、在日中国人家族の異文化適応とその延長線上にある教育戦略をとらえる視点は、日本の社会や文化に対するのみ考えていた。その際、異文化適応は単線的、不可逆的なものとして語られ、日本から中国への帰国や第三国への「再」移動は不適応を意味する逃避行為とみられていた。しかし、当事者の彼らに対する調査では彼らが能動的に行動する側面が明らかになった。これが本年度の成果であり、移住のための資本を備える家族に対する研究を通して、より移民の全体像を把握するにつながるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、調査を継続するとともに、これまでの研究成果をまとめる作業を中心に進める予定。
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