本研究は、中国人移民家族に対する質的調査を行うことで、これまであまり取り上げていなかった移民家族の内部構造とその変容過程を解明することを目的とした。過去5年において、計17の家族、28人に対するインタビュー調査を行い、主な成果との課題についてまとめる。 ①適応における日中を「象徴化」する。異文化適応を日本対中国という構図でとらえている先行研究が多いが、継続的に行う今回の調査において、いわゆる母国志向と言われるものは、特に家庭内における衝突場面においては非日本的=中国という形で、「象徴化」する現象が見られた。例えば家族の役割構造においては、家庭の合理的選択であるにもかかわらず妻(母)が専業主婦となることは非中国的=日本的なものにされてしまう。 ②「道具的」教育戦略。中国移民家族において、日中という二項対立ではなく、合理的、道具的に選択する傾向がある。定住、移動に関する意思決定には子どもに対する教育が常に中心的な関心事であるが、その教育方針にはいわゆる「民族教育」としての意識が弱く、学歴重視の中で、戦術的かつ効率的に「いいどこ取り」の対策が講じられている。言語の使用や家庭における母語保持活動には道具的な態度で臨む家庭も少なくない。 ③ソーシャルキャピタルとその運用。日本定住、アメリカやカナダへの再移住、中国帰国。この三つのオプションは移民家族の選択肢であると同時に、準拠集団にも、ソーシャルキャピタルにもなりうるものである。オプションの選択は必ずしも全員参加ではなく、子どもを「先遣」する「家族離散」型がより多くみられる。 上記以外、家族の内部構造変容の類型化、葛藤場面における問題解消とそのメカニズムの解明などの面においても成果があった。長期調査で蓄積したデータを整理し、先行研究を踏まえ、体系化していくことを目標にしていきたい。
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