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2012 年度 実施状況報告書

教育福祉による学校・家庭・労働への介入・再編と就通学支援に関する比較社会史的研究

研究課題

研究課題/領域番号 24531057
研究種目

基盤研究(C)

研究機関東京外国語大学

研究代表者

倉石 一郎  東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (10345316)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2016-03-31
キーワード就通学保障 / ビジティング・ティーチャー / アメリカ合衆国
研究概要

平成24年度においては、米国における教育福祉の動向の鍵を握る存在として、ビジティング・ティーチャー(訪問教師)の米国社会における歴史的役割について研究を行った。このうち、コモンウェルス財団の助成を得て全米に事業が発展する1920年代の動向を解明するための一次資料を、ニューヨーク市郊外のロックフェラーアーカイブセンターにて閲読、複写することができ、精神医学や精神分析への傾斜を強めターニングポイントとなったとされるこの時期にビジティング・ティーチャーが行った活動が解明できる道が開けた。二次資料では、富裕層の神経症的子どもへの関わりへのシフトが強調されていたが、南部や農村地帯に展開したビジティング・ティーチャーの活動記録からは、低階層の就通学支援に依然として深く関わっていたことが明らかとなった。特に南部で黒人児童・生徒とどのように意識的に関わったのかを明らかにすることが重要な課題である。また、これまで資料が乏しくブラックボックスとされてきた、大恐慌、ニューディール時代のビジティング・ティーチャーの活動動向について、ニューヨーク市において資料調査を行った結果、ルースベルト政権のPWA事業などと連携しながら、知的障害を中心とする障害児教育に対して継続的にビジティング・ティーチャーの配置が行われ、さらにその需要がハイスクールレベルにまで及んでいることが明らかになった。ビジティング・ティーチャーが、ニューディール体制下で障害児の就通学保障に深く関わったことが示され、今後の重要な課題の所在が示された。また比較対照である日本(高知県)の福祉教員についても、就通学をした側(福祉教員)のみならず支援された側(元長欠児)からも行った聞き取り調査のデータ分析に着手した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

おおむね順調に進展していると考えられるのは、資料収集において成果が見られたためである。本研究が比較研究の主要な対象としているアメリカ合衆国の教育福祉の動向に関して、中西部ならびにニューヨークにおいて2回の資料調査を行い、いずれも極めて大きな成果を得ることが出来た。第1回の調査(ウィスコンシン、シカゴ)においては、大恐慌が収束し戦時体制が成立する1940年以降に、州レベルあるいは連邦政府によって新たに高まり始めたビジティング・ティーチャーへの関心を跡づける資料を入手できた。また第2回の調査においては、ロックフェラーアーカイブセンター所蔵の、コモンウェルス財団によるビジティング・ティーチャー事業の実施報告書に接することができた。これにより、同時期の就通学支援の全貌が解明できる道が開かれた。以上のように資料調査が順調に伸展し、今後の研究の展望が十分に開かれたと考えられる。

今後の研究の推進方策

今後は、平成24年度に収集したロックフェラーアーカイブセンター所蔵資料の分析を行い、1920年代における米国の教育福祉、それによる就通学支援のあり方の特徴に関する研究を完成させるとともに、1930年代のニューディール体制下での、国家福祉による編入過程のなかでどのような変化が起こったかについてさらに考察を進める。また、1940年以降の戦時下体制のなかで州単位のビジティング・ティーチャー事業をスタートした諸州、とりわけジョージア、ルイジアナ、ミシシッピといった南部諸州に注目しながらさらなる資料収集、分析を行っていく。また比較のカウンターパーツである日本については、これまで進めてきた福祉教員(高知県)による長欠児対策について、特に当事者からの聞き取り調査をオーラルヒストリーの方法に基づいて進めさらなるデータの蓄積をはかるとともに、高知県教育会館書庫に所蔵が確認された昭和20~30年代の県教育関係文書の精査を進め、比較研究の基礎とする。

次年度の研究費の使用計画

次年度使用額については、平成25年度以降に請求する研究費と合わせ、次のような使用計画に基づき執行する。まず、ビジティング・ティーチャー事業の展開が新たな段階に入った1940年代以降の動向に関する資料収集に力を入れ、複数回にわたり米国において資料収集を実施する予定でにしており、その旅費にあてる。州単位のビジティング・ティーチャー事業をスタートさせたミシガン、ならびに南部諸州を中心とする調査旅行を計画している。国内旅費として、福祉教員関係資料収集のための高知県への出張旅費にあてる予定である。また引き続き、教育福祉社会史に関する図書等を引き続き物品費等で購入し、研究に役立てる予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2012

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] ニューヨーク市における<制度化>以後のvisiting teacherの活動の変容:「学校に行かない子ども」への対応を中心に2012

    • 著者名/発表者名
      倉石一郎
    • 雑誌名

      東京外国語大学論集

      巻: 84 ページ: 127-140

  • [雑誌論文] ビジティング・ティーチャーの「訪問」からの部分的撤退はなぜ起こったのか:知的障害児教育とのかかわりをめぐる一考察2012

    • 著者名/発表者名
      倉石一郎
    • 雑誌名

      東京外国語大学論集

      巻: 85 ページ: 141-160

  • [学会発表] 福祉が<教育>を見いだすとき:米日のスクールソーシャルワーク発展史から2012

    • 著者名/発表者名
      倉石一郎
    • 学会等名
      日本教育社会学会
    • 発表場所
      同志社大学
    • 年月日
      20121027-20121028
  • [学会発表] 越境者はいかにしてプロフェッショナリズムの罠に落ちたか:米国スクールソーシャルワーカー(ビジティング・ティーチャー)の歩みからの示唆2012

    • 著者名/発表者名
      倉石一郎
    • 学会等名
      日本質的心理学会
    • 発表場所
      東京都市大学
    • 年月日
      20120901-20120902
    • 招待講演
  • [図書] 教育における包摂と排除:もうひとつの若者論(分担執筆)2012

    • 著者名/発表者名
      稲垣恭子編
    • 総ページ数
      101-136ページ
    • 出版者
      明石書店

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公開日: 2014-07-24  

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