研究課題/領域番号 |
24531057
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
倉石 一郎 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (10345316)
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キーワード | ビジティング・ティーチャー / 福祉教員 / 就通学支援 / 就学義務 |
研究概要 |
本年度は、就通学支援の比較社会史的研究における最も重要な対象と位置づけている米国についてインテンシブな研究を行い、革新主義期から1950年代半ばまでをカバーするヒストリオグラフィーを完成させることができた(『アメリカ教育社会福祉史序説:ビジティング・ティーチャーとその時代』として春風社より2014年9月に刊行予定)。その中でも特に今年度は、1920年代のコモンウェルス財団の支援を受けてのビジティング・ティーチャー事業の飛躍期(上記著作第4章に対応)、1930年代の大恐慌と公的福祉の台頭という状況下、さらに戦時体制を迎える中でのビジティング・ティーチャーの再編と拡張の動き(同第5章に対応)、1940年代からの州レベル、特に南部各州における州全体をカバーするビジティング・ティーチャー制度の登場、その中での黒人生徒を対象とする就通学支援策の展開について(同第6章に対応)、それぞれ米国各地の各種アーカイブでの資料収集の成果として一応の歴史叙述を完成させることができた。またもう一方の比較対象である日本についても、ビジティング・ティーチャーと類比性の高い存在である高知県の福祉教員に関する資料収集を再開し、高知県教育会館屋上倉庫に存在する非公式のアーカイブを探索した結果、1950年の福祉教員制度化に至る過程の直接的検証につながる極めて画期的な資料を発見することができた。この資料発掘により、福祉教員制度成立史の叙述が大幅に正確を期することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ビジティング・ティーチャーの存在を軸に、米国における就通学支援の歴史的展開を叙述する作業が、当初はあと1年ほどかかると思われていたところ、予想以上に順調に進み、『アメリカ教育社会福祉史序説:ビジティング・ティーチャーとその時代』として、2014年9月刊行予定の著作の形でまとめることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、米国における就通学支援策の展開について、『アメリカ教育社会福祉史序説:ビジティング・ティーチャーとその時代』がカバーできなかったより新しい時代、すなわち概ね1960年代から20世紀末までの現代に焦点を移し、さらなるヒストリオグラフィーの算出を目指したい。50年代半ばまではビジティング・ティーチャーという境界人的な存在にスポットを当て、そこを軸とした叙述がある程度有効であったが、今後は就通学支援策において州政府に加え、連邦政府というアクターの存在が圧倒的な重みをもってくる。前掲著作で扱ったビジティング・ティーチャーの後継であるスクールソーシャルワーカが、連邦資金の援助を受けた各種貧困マイノリティ生徒向けプログラムにおいていかなる役割を果たしたかを、1960-70年代の連邦政府および各州政府教育当局の資料を通して浮き彫りにしていく。またそれと並行して、日米比較の一つの視点として、教科書の無償配布(free text provision)という視点を設定し研究を展開させる。日本では高知・長浜の教科書無償闘争が名高いが、これまでの高知の福祉教員研究の蓄積を活かすことができる一方、米国についてもある程度資料研究のノウハウを身につけてきたため、十分に遂行が可能である。
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