本研究は、多文化社会ヨーロッパにおいて、多文化共生の鍵となる教育課題としての異文化間教育(市民性教育はその中心となる)を遂行しうる教員をどのようにして養成しうるのか、その理論的な背景と実際の教員研修の具体的な状況について明らかにすることを目的として実施されたものである。 3年の研究期間の最終年度として実施された本年は、2年間の理論研究と実地調査の結果を総合してその成果を取りまとめた。特に、実際に多文化化し、多様な文化的な背景を持つ子どもたちの教育を担っているヨーロッパ諸国の教員に対する「現職研修」における必須の項目について、その理論的実践的なあり方を明らかにした。 具体的には、①教員の教育観、とくに単一文化的な国民国家における教員養成及び訓練を受けてきた現職教員にとって、異文化間教育学的な素養、及びその基礎理論をしっかりと伝えることが重要であること。②社会の多文化化の中で教授、学習内容に対する社会的、経済的、文化的、さらに政治的な要請に拠ってのみ教育内容を確定するのではなく、今後の大きな課題として掲げられている多文化共生のための教育内容を吟味し、各国の教育に生かしていくことが求められており、教員がその課題を認識し、教育課程の変性に取り組むことが重要となること。③こうした新しい教育内容、教育上の必要性に応じるためには、教育方法上の工夫も求められており、参加型あるいは体験的、さらにはドラマ的な手法を用いるなどの新しい教育手法が積極的に取り入れられる必要があること。④さらにこうした新しい教育内容及び手法に対応し、多文化的な子どもたちを育成するために、教員研修には異文化間教育学的な観点からの改革が必要であること、等である。
|