研究課題/領域番号 |
24531063
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
大前 敦巳 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (50262481)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 教育社会学 / 高等教育 / 比較教育 / 日仏比較 / 新構想大学 / 職業専門化 |
研究概要 |
本年度は、フランスの文科系大学学部に着目した伝統的大学と新構想大学の関係を、特に職業専門化の進展に焦点を当てて分析し、学会発表と論文執筆を行った。また、1968年以降における日仏の新構想大学に関する既存文献や編年史等の資料を収集し、今日の大学改革に連なる教育刷新の展開について比較分析し、学会発表等を行った。その結果、フランスにおいては、1968年のフォール改革に伴って「実験大学」として設立されたパリ第8・9大学が、ディシプリン複合性(pluridisciplinarite)と学際性(interdisciplinarite)に基づく再編の先導的役割を担い、社会人学生や外国人学生に門戸を開き、職業専門化の先駆けとなる課程を新設し、教育方法も伝統的教授法とは異なる修学支援を取り入れていった。また、政治的なイデオロギー対立や、郊外キャンパスの都市開発と結びつくなど、様々な社会的要求に対して全方位的に開かれた性格をもつ変革が企てられた一方で、一枚岩になりえない対立や矛盾をはらんでいることが明らかになった。パリ第8大学の事例については、シャルル・スリエによる主要図書の書評を執筆した。日本の新構想大学に関しては、1963年と1971年の中央教育審議会答申の背後にある政府の高等教育政策に着目し、1973年筑波大学開学にいたる政策形成過程を分析した。その結果、当初すでに戦後新制大学の画一性を批判する形で、教育の多様化と制度の弾力化を図る基本構想が形作られており、今日進展する新自由主義改革との連続性が大きいことを明らかにした。これらの日仏の変化を比較するための理論的基礎作業として、P.ブルデューのテキストを再検討し、文化的再生産をもたらす社会的位置関係や態度性向の分析が、高等教育の自律性を低下させる文化変動を理解する上で重要であることを指摘し、論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画に従い、日仏の新構想大学(日本:筑波大学、新教育大学等、フランス:パリ第8~13大学)を対象に、編年史編纂資料、調査統計資料、カリキュラム関係資料等の収集を行い、その内容を検討した。フランスの関係資料については、パリ第8大学のシャルル・スリエ氏、パリ第13大学(当時、現第12大学)のロイック・ヴァデロルジュ氏との連絡交流を通じて、新構想大学編年史に関する文書を入手することができた。学会報告と論文執筆は、ほぼ予定通り進めることができた。ただし、電子文書化したデータベースの作成作業は、作業補助を依頼しなかったこともあり完成に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度に作成した大学別・年代別データの分析を継続するとともに、細部の情報について資料を補完し、主に文科系分野の役職経験者を対象に第一次聞き取り調査を実施する。日本では、筆者が所属する現職教員再教育を目的に設立された上越教育大学と、筑波大学の人文社会科学系学群・学類を主なフィールドとする。フランスでは、パリ第8大学と第12大学を主なフィールドとする。 4~5月に、大学別・年代別に職業養成教育と既存ディシプリンの関係について分析するとともに、5月10日に日仏会館で開催されるパリ第10大学のクリスチャン・ラヴァル氏講演会「市場化する教育とグローバリゼーション」にコメンテーターとして参加し、そこで1960年代以降の日仏の大学における職業専門化の変容について報告を行う。 また、6~8月に上越教育大学で、8~9月に筑波大学人文社会科学系学群・学類で、役職経験者への聞き取り調査を実施し、聞き取り調査結果の分析と並行して日仏の新構想大学設立に至った政策過程を分析し、9月21~22日の日本教育社会学会で発表し、上越教育大学紀要に論文を執筆する。また、フランスの教育改革をめぐる社会学の理論的考察について、7月28日の日仏社会学会研究例会で報告し、論文を執筆する。 11~12月にかけて、パリ第8大学・第12大学の研究者および役職経験者を対象とする聞き取り調査を実施し、現地資料収集を合わせて行う。 平成26年1~3月には、聞き取り調査結果を含めて補完したデータの比較分析を行い、論文を執筆する。合わせて日本語・フランス語の双方で中間報告書(各10~20頁程度)を作成し、自家製本を行った上で関係者に送付する。
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次年度の研究費の使用計画 |
日仏の新構想大学に関して追加購入する図書関連費用150千円、文献複写費30千円、文献整理消耗品20千円を予定する。 上越教育大学と筑波大学の役職経験者への聞き取り調査実施のため、国内旅費90千円(東京等1泊2日×3回)、録音起こし補助のための人件費・謝金40千円(50時間分)を計上する。また、11~12月にパリ第8・12大学等で約1週間の現地調査を行うための海外旅費として250千円を予定する。 日仏社会学会研究例会(日仏会館)と日本教育社会学会(埼玉大学)で研究報告を行うための国内旅費として60千円を計上する。 平成26年3月に中間報告書を作成するための消耗品・送料等の費用として60千円を予定する。 以上、直接経費700千円の使用内訳として、物品費260千円、旅費400千円、人件費・謝金40千円を計上することとする。
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