本年度は、昨年度に引き続きメキシコの関係機関において、教師の教育その他の活動に関する資料の追加調査をおこなった。そして、収集した資料を入手済みのものとあわせて分析し、メキシコの教師が、学校および地域社会において教育に加えてどのような活動をし、どのような役割を担っていたのかという点について考察した。メキシコにおいては、20世紀末から21世紀にかけて、複数の先住民文化がメキシコ国家の文化的豊かさの基盤をなすと考えられるようになり、文化の多様性を尊重しようとする理念が確立する。そして、それにもとづく教育政策として「二言語文化間教育」が導入され拡大していく。しかし、教育の現場においては、それを実践するための具体的な方法や教材、訓練を受けた教員などが十分に整っておらず、さまざまな問題を抱えている。また、住民のあいだでも、先住民文化をどのようにとらえるかについて、かならずしも意見が一致しているわけではない。そのため、理念上は「多文化の共生」が謳われながらも、実態においては克服すべき課題が数多く残されている。とはいえ、先住民の文化や権利の尊重を訴えて、それをもとに町の一体感を強め、あるいは町の活性化を図ろうとする政治的、経済的、文化的運動も各地で起こっており、教師がその中心的な役割をはたしている地域は少なくない。本研究は、地域や時代によって状況は大きく異なるものの、先住民言語を話すバイリンガル教師をはじめ、農村地域の教師たちが地域における指導者として、社会の発展に向けて重要な役割を担ってきたことを明らかにした。こうした研究の成果は、図書および学術論文として発表した。また、教師や保護者に加え、子ども自身に焦点をあてて、メキシコ社会において子どもたちがどのような位置にあり、どのような役割を果たしてきたのかという視点から研究をさらに展開する準備を進めている。
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