研究課題/領域番号 |
24531069
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
荒牧 草平 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (90321562)
|
キーワード | 親族 / 家族制度 / 階層 |
研究概要 |
今年度の研究実施計画に基づいて、②の研究課題「昨年度の実証的知見を従来の階層化理論によって説明する試み」を中心に研究を進めた。具体的には、以下の研究を行った。1)教育を通じた階層化のプロセスに関する理解を深めるため、日本の教育選抜システムや階層概念に関する理論的整理を行った(『九州大学教育社会学研究集録』)。2)教育を通じた階層化に関する主たる理論の1つであるブルデューの文化資本論に関する文献のレビューを進めた。3)全国家族調査(NFRJ)データの再分析を行い、上記の理論的検討をふまえて考察した(共著書の1章として論文にまとめた。来年度に公刊)。4)以上の成果をその1部として組み込み、博士論文を完成させた。 今年度の最大の実績は、教育達成に対する拡大家族の影響に関する、これまでの研究の成果を、博士論文の一部として組み込み、これを完成させることができたことである。とりわけ注目されるのは、子どもの教育達成に対する祖父母やオジオバによる直接的な影響は、日本の伝統的な家族制度を背景としたものであるという予想とは異なる結果が得られたことである。確かに、本研究においては、親の影響をコントロールしても祖父母やオジオバの直接効果が観察されている。しかしながら、それらの関連は、彼らによる子どもへの直接的な関わりがもたらす学力や意欲の形成(社会化効果)や直接的な経済的支援というよりも、彼らの存在が準拠集団として親の教育期待形成に関与することによって現れた、擬似的な関連であると理解された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究テーマは、教育達成の階層差に関する、これまでの研究から発展して設定されたものである。しかしながら、親族や家族制度という新しい視点の導入は、これまでの研究枠組の想定を越えたものであり、その知見はこれまでの成果と相容れない可能性もあると予想された。そのため、本研究課題に取り組み始めた当初は、その知見を博士論文に組み込むことが可能だとは考えていなかった。ところが、研究の結果、祖父母やオジオバといった拡大家族の影響は、上述の通り、日本の伝統的な家族制度の影響とは独立した要因によって現れていると考えられることが明らかとなった。この結果は、親の教育期待を中核にすえた博士論文の主張と整合性があり、むしろその内容を充実させ得るものであると考えられた。これはまた、来年度の課題として想定していた「階層研究全般の見直し」にもつながる研究成果であった。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の通り、観察された「拡大家族効果」は、子どもの教育達成に直接関与するというよりも、親の教育期待形成に影響することによって、間接的に影響を及ぼすものと理解された。この結果は、当初の予想とは異なり、日本の伝統的な家族制度の影響については否定的な結論をもたらした。しかしながら、その検討は不十分なものであり、家族制度が影響している可能性についても、引き続き研究を積み重ねる必要があると考えられる。 一方、上述の解釈が妥当であった場合にも、親の父母やキョウダイ(子どもの祖父母やオジオバ)の影響は、親のパーソナルネットワークや社会関係資本という観点から理解できる可能性がある。このように親を中心にした社会関係に着目することには、当然、階層結合の観点も含まれうる。したがって今後は、当初の計画通り、研究課題③「階層結合や社会関係資本および家族社会学的な理論・概念との接合」という観点から分析を進めることになる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
執行期限近くまで金額の確定しないものがあり、残額に余裕を残していたため。 次年度の資金と合わせて計画的に執行する。
|