研究課題/領域番号 |
24531074
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 植草学園大学 |
研究代表者 |
高野 良子 植草学園大学, 発達教育学部, 教授 (00350190)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | キャリア形成 / 女性校長 / 男女共同参画 / ジェンダー / 学校教員 |
研究概要 |
本研究の目的は、公立中学校および高等学校を対象とし、47都道府県において第1号としての役割を担った女性校長は、どのような政策要因のもと、どのようなキャリアを持った教員が登用されたかを、統計資料、地方新聞、地方教育史などの史・資料および面接調査をとおして実証的に明らかにすることにある。教育の場での意思決定場面への男女共同参画は十分とは言えず、とりわけ、中学校・高校の女性管理職(校長・副校長・教頭)比率は、小学校の女性管理職比率の3分の1にも満たない。このような低率段階にある学校女性管理職のパイオニア期を担った各県初の女性校長の登用過程とキャリアを歴史的に明らかにする作業は、男女共同参画社会を男性とともに担う性、すなわち、もう一方の自律的な担い手であるべき女性のさらなる向上に資するものと考える。 先行研究の学校女性管理職研究では、小学校については、高野(2006)らにより概ね明らかにされているものの、中学校と高校の各県第1号の女性校長の登用とキャリアは殆ど検討されて来なかった。それゆえ本研究では、①女性校長登用を促した政策要因、②中学校と高校における女性校長第1号の県別の登用年度とキャリア、③小学校と中・高校との女性登用上の違いデータ等により実証的に明らかにする。 1年目となる24年度は、女性校長に関する文部科学省及び各県教育委員会が公表している統計資料の整理を行った。次に、1948年度に全国初の女性高校長が福岡県で登用されているが、後続の女性校長第1号データ(登用時の年齢・家庭背景、学歴、担当教科、登用前キャリアなど)の収集を県別に把握し、各県教育史などの文献とともに一覧表にした。高校の各県第1号に関する県別データの収集・整理と併行して、個人情報に十分に配慮し、第1号(2名:千葉県と茨城県)への面接調査等も実施したことで、キャリア形成に関する有効な知見が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学校数の減少に伴い、男性校長数と比率は漸減しているにもかかわらず、女性校長数と比率は低率段階ではあるが漸増傾向にある。本研究は、第1号の基礎データと彼女たちの置かれた状況の分析をとおして、教育の場における男女共同参画の推進に寄与することを目的としている。 初年度の達成度は以下のように捉えている。計画した高校の女性校長第1号のデータ収集は、既存の統計資料、地方新聞、地方教育史、女性史などと併せて、第1号等へのインタビュー調査と基礎データを整理し、それらに基づき分析を行った。対象の高校に関しては、昭和23年度に福岡県の公立高校に女性校長第1号が誕生したことが資料より明らかになった。しかし、47都道府県(以下、県とする)すべてに第1号が誕生するまでの期間が60年以上にも及んだことも明らかになった。また、全ての県で女性校長第1号は誕生したものの、64年経った今も、依然として女性校長が一人もいない「ゼロ県」が存在(2県)していることも判明した。①量的調査として、高校第1号に関する公式統計や調査統計、県別データの統計処理と分析をおこなった。次いで、②質的調査:第1号役割を受容した2名にインタビュー調査を行い、登用までの経緯や、キャリア形成過程等について聞き取り調査を実施した。 以上のように、24年度の研究計画は概ね達成することができたが、データ収集にかなりの時間を要したことにより、当初予定では、2~3県2~3名へのインタビュー調査を計画していたが、2県2名の実施となった。次年度は、高校に続き、中学校の女性校長第1号について把握し、最終年度には、小学校と中・高校との女性登用上の違いをデータ等により実証的に明らかにすることとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、これまでほとんど研究対象とされていない中学校と高校の女性校長を研究対象とする点と、各県第1号の登用過程とキャリアの分析を試みるという視点に、学術的な特色や独創的な点を持ち、従来の女性管理職研究に新たな知見を加えることが予測される。また、女性管理職研究において不十分だった中学校と高校を対象とすることで、学校教育における男女共同参画の全体像を描くことに寄与する可能性があると考えている。 初年度は、高校を対象とし、各県第1号に関する都道府県別データの収集・整理にかなりの時間を費やした。2年目となる次年度は、計画どおり、中学校の女性校長第1号データを県別に把握することとする。これらを統合して、中・高校における47都道府県の第1号登用の全体を明らかにする。併せて、小学校第1号との比較も加え、小・中・高の3つの学校段階における女性校長の登用およびキャリア形成上の類似点や相違点などについて、収集したデータと個人情報には十分な配慮をして実施した第1号への面接調査等に基づいて分析・考察する。低率段階にある女性校長登用推進のための課題を論じ、従来の女性管理職研究に新たな知見を加え、学校教育分野に期待される男女共同参画の全体像を描くべく進める。また、研究成果を関係の学会等にて発表を行うとともに成果物としてまとめていく。 最終年度には、本研究の面接対象者を中心に、研究者ならびに一般企業の管理職も交えて、研究成果の公開報告会を計画している。男女共同参画社会を担う女性・男性のキャリア形成について考えるための報告を行い、研究と実践の連携をはかるとともに、多くの国民に現状を知ってもらえる場を設定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用予定の研究費については、本年度は、1980年代に登用された第1号2~3名に面接調査を予定し、戦後第1号として任用された初期の女性校長を対象としたが、高齢のためインタビューは難しく、結果として2名のみの面接調査となった。そこで、次年度は、1980年代ではなく、1890年代に登用された新潟または和歌山県の高校第1号に調査を依頼することとし、そのための研究費に充当する。 次年度は当初の計画どおり、学校段階を高校から中学校に移し、本年度と同様に、「学校基本調査」「学校教員統計調査」(1947年-2012年度版)により、47都道府県で女性公立中学校長の第1号が登用された年度を確定する。次に、地方新聞や地方教育史などの記載内容より、第1号の氏名と赴任校、登用の経緯、基本属性(登用前キャリア、担当教科名、最終学歴など:未記入も想定される。)を収集し全体を把握する。 具体的には、女性校長第1号の登用を促す政策要因は、小・中・高のそれぞれの学校段階でパイオニア期には類似点がみられるものの、中・高の第1号は、「男女共同参画社会基本法」などの法整備等が追い風となったことが推察される。また、校長登用前キャリアや教諭時代の担当科目などには、中・高それぞれに特徴と違いが見出されることが示唆される。このような女性教員や女性管理職を把握するために作成する都道府県別第1号に関する資料は、他分野のパイオニア研究においても有用なだけでなく、各地域の男女共同参画や教育に関する基礎資料としても広汎な利用価値があると考える。現時点での全体計画の変更等はない。
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