研究課題/領域番号 |
24531093
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
新井 義史 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (10142762)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 抽象絵画 / 感性 / ゲシュタルト心理学 / 視線測定 |
研究概要 |
本年度は、研究初年度として、収集した文献の分析を通じた基本的な一般仮説の構築、および視線測定装置を用いた計測準備を中心に、(1)視覚的力動性に関する仮説の再構築、(2)仮説をもとにした使用図版の作成、(3)視線測定準備と予備実験を行った。 (1)に関しては、関連文献の収集とプロトコル整理のための文言の検討を行った。①抽象絵画が、主として感情伝達を目的として制作されていることから、「視覚的力動性」に加えて「視覚と感覚との関係」に関する文献へと収集範囲を拡大した。②それらの文献に基づき、絵画表現における造形要素・造形秩序と人間感覚との間の基礎的仮説の組み立てを試みた。③視覚的力動性に関する再検討を行った。クライント、G.ケペシュ、A・ドンデス、朝倉直己、カンディンスキーおよびアルンハイムによる視覚的力動性に関する記述を再検討した。その結果、抽象絵画の構造理解のための理論的アプローチ方法の試案を見出すことができた。 (2)仮説をもとにした使用図版の作成に関しては、観察状況をより基本的に計測することが望ましいと考えた。したがって新規作成よりもすでに作成した図版の中から選定しなおすことにした。 (3)視線測定装置(アイカメラ)を使用するための準備及び予備実験を行った。まず準備として①アイカメラを用いた諸種の研究結果を収集し、実験方法や結果集約の手法を検討した。②計測に使用するための仮図版を選定し、2名の被験者において諸種の試行を行った。③ただし、当初意図していた、視線測定とプロトコルの同時収集が困難であることが判明したことから、SD 法・質問法などへの手法変更を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)関連文献の収集とプロトコル整理は順調に進展した。①視覚によって感情が発生する際の基本的経路、②感情における情動の位置、③人間の感覚における抽象絵画理解に果たす情動の意味、等の確認が出来た。 (2)視線測定準備と予備実験を実施した中で、複雑な図柄による測定には困難さを伴うことが判明した。したがってシンプルな図版を用いる方法に変更することとし、作成済みの図版の使用を再検討した。 (3)視線測定とプロトコルの同時収集が困難であることが判明した。よってそれに代わりうるSD 法・質問法などへの手法変更を検討した。 初年度の研究としては、理論的な内容に関する分析方法に関しては進展した。しかし、実験操作の手法に関しては、困難な問題が生じたことから、そのための方針変更と解決策の検討に時間を費やさねばならなかった。これらのことからも、初年度には発表の機会を設けることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目(2013年度)には、(1)アイカメラを用いて被験者の注視点や視線移動の測定のための実験を行う。検査項目は、(A)一般法則(抽象的構造水準)として、カンディンスキー:基礎平面(基調)及び配置図形等、アルンハイム:斜め・明暗・軽重等、その他:クライント、ケペシュ、ドンデス、ゲシュタルト関係。(B)特殊事例検証として、単色ドローイング、水墨画、前衛書道をサンプルとする。 (2)視線測定とは切り離した形で、録音による発話記録を書き起こし、個々の被験者における感性的・情緒的語彙を解析する。また、SD法による検査およびアイカメラ記録データと相関させることで視線の動きと語彙との関連性を検討する。 (3)これらをもとに視覚的力動性の情緒・印象・反応に関する一般性を導く。視覚的力動性の一般的性格を整理し、その解説に有効な「用語リスト(語彙一覧)」を作成する。 また、用語リストを用いた「語彙力増加トレーニング」方法としてのレクチャー、およびパソコンのモニターを通じたトレーニングを検討したい。 研究3年目(2014年度)には、被験者に対して「語彙力増加トレーニング」を行い、用語に関するスキームを与える。その学習効果確認のため、再度の検査を行う。学習の前後の比較により視覚的力動性理解の変化を確認する。スキーム獲得のための学習を行った実験群と、それ以外の対象群とを比較して非具象絵画の解釈度に関する実験を行う。アンフォルメル、抽象表現主義、カラーフィールドペインティングの代表的作品を観察させ、視線測定とプロトコル分析を行う。これにより被験者が所持する語彙と非具象表現の作品理解度との関係を検討する。成果を総合的にまとめ報告書を作成する。併せてホームページを通じて一般に公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
視線測定装置一式がアカデミック価格により購入可能となったことから、機器購入に予定していた予算額に余裕が出た。また、予定していた調査研究に出向くことが出来なかったことから旅費の執行が行われなかった。次年度には旅費の執行および視線測定補助に使用する物品に費やしたい。
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