本年度は、研究最終年度として、視覚的力動性概念の理解および造形用語の語彙増加による、非具象絵画の解釈度の変化確認を以下の手順で行った。 まず、被験者に対して「視覚的力動性概念」および「造形用語」に関する解説を行った。その後に、1、15名の被験者に抽象絵画作品1点を選定させ、用語中心の解説レポートを作成させた。いずれの被験者も抽象表現に対して語るべき言葉をほとんど有していなかったものが、用語解説により語彙が与えられたことで作品分析へのアプローチが容易になることが伺われた。2、8名の被験者に水墨による抽象表現を行わせ、PCに取り込み着色しPhotoshopにより再構成させた。その作品を口頭説明させ、語彙力増加と非具象表現との関係性を検討した。その結果、語彙力の多寡よりも造形用語の意味内容の確実な理解度が問題である。また造形性の用語を精選して限定的に使用することで他者へのメッセージ伝達が明瞭になることが伺えた。 3ケ年の研究のまとめとして、図書『芸術・スポーツ文化学研究』(大学教育出版発行)において成果を発表した。標題は「視覚心理の観点による抽象絵画の構造理解―視覚の生理的メカニズムから生じる画面構造のしくみ―(pp22~45)」とした。そこでは次のような内容を報告した。1、生理的システムとしての力動的恒常および感覚における恒常性のしくみ。2、絵画空間の力学=視覚的力動性の存在。3、画面に関する諸研究の考察として、(1)画面枠の機能 (2)基礎平面の基本的特性 (3)心理バランスの構造図 (4)地と図の性質 (5)図=視的要素がもつ内面的性質 (6)東洋的表現にみる律動性。 以上の非具象絵画における研究を踏まえて、広くビジュアルアーツ全般に検討の範囲を拡げ、「構図・構成・レイアウトの心的メカニズムによる理解とその指導」との研究課題で科研費による申請(H27~29年)を行い採択された。
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