研究課題/領域番号 |
24531117
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
杉江 淑子 滋賀大学, 教育学部, 教授 (30172828)
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キーワード | 国際移動 / 音楽的アイデンティティ / 若者音楽文化 / ニューカマー / ドイツのトルコ系移民 / 学校音楽教育 / 国際理解教育 |
研究概要 |
本研究は、外国人労働者受け入れ等に伴い多文化化しつつある日本社会における学校音楽教育の課題を国際理解教育の観点から明らかにするとともに、ドイツの先行事例を検討しながら、日本の学校音楽教育に向けて具体的な教材・方法を提示することを目的とする。 平成25年度の研究実績は次のとおりである。 第1に、日本に移住してきたニューカマーの子ども・若者の音楽的アイデンティティ形成の過程を文化の継承・変容・複合化の観点から明らかにすることを目的に、静岡県浜松市在住の日系ブラジル人の保護者と子どもの双方に対する聞き取り調査を実施した。聞き取り調査から、国境を越えた文化間移動を経験した家族においては、世代間のギャップに国際移動を経験した時期の違いが重なって、祖父母世代→親世代→子世代への文化的な分断が国際移動を経験しない家族よりも大きく現れるということ、また、そういう歴史的背景をもつニューカマーの子どもの場合、日本における日常生活の中でも、家庭と学校の間、家族と友だちの間など、様々な場面で頻繁な文化間移動が行われていることが推察された。第2に、研究協力者、宮本賢二朗により、トルコ系移民を中心に外国人労働者を受け入れてきたドイツの先行事例として、1970年代から80年代初頭におけるトルコ人の子どものための音楽教育の教材・授業研究の事例が収集され、特にイアムガルト・メルクト(Irmgard Merkt)の研究を中心に分析・考察が行われた。 上記の研究成果については、シンガポールで開催された第9回 Asia-Pacific Symposium of Music Education Research(7月:杉江)、第44回日本音楽教育学会大会(10月:杉江・宮本)で口頭発表、『音楽表現学』Vol.11(11月:宮本)『関西楽理研究』Vol.40(12月:杉江)にて研究報告として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下、具体的な目的項目ごとに、平成25年度の計画に対しての達成状況について記す。 ドイツの先行事例を参考にしながら、日系ブラジル人等の母国語の歌・音楽を教材化し、学校教育における実践プランを作成すること(項目1)に関しては、その参考資料となるドイツのトルコ系移民の子どものための基礎学校用音楽教材や授業実践研究報告などの収集・分析を進めるとともに、ブラジルの子どもの歌の音楽的側面、内容的側面からの分析を進め、教材化の可能性を検討し、実践プランの原案を作成した。 ただし、実施プランに関する意見聴取等のための調査(項目2)については、実施プランの試行と併せて調査を実施する方が成果の検証を含めることができ有効であると考え、調査時期を実施プランを試行する平成26年度に移行することとした。 また、平成24年度に一部実施した聞き取り調査を本格的に実施した。特に静岡県浜松市在住の複数の日系人家族の保護者世代・子ども世代の双方に対して、詳細な聞き取り調査を実施できたことは大きな進展であった。 成果発表については、国際学会及び国内学会にて発表し、また学術誌に研究報告として公表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの聞き取り調査により、保護者世代と子ども世代の音楽的アイデンティティ形成についてはさらにケース・スタディを量的・質的に高めながら継続していく必要性が示されたため、平成26年度も聞き取り調査を滋賀県湖南市および長浜市、静岡県浜松市において継続する。 また、日系ブラジル人等の母国語の歌・音楽の教材化についての研究をさらに進め、実践プランの試行と検討を行う。 実践プランの成果検証のための児童生徒を対象とした調査を行う。 これまでの調査結果のワーキングペーパーを作成し、関係者(学校教員、研究協力者等参加)による研究会を開催し、実践プランの試行成果等についての検討を行い、実践事例集を作成する。 研究の成果を関連学会にて発表するとともに、研究成果報告会を開催し、実践事例集を盛込んだ研究報告書を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度において、関係者による研究会が日程調整の都合により開催できなかったこと、調査結果のワーキングペーパーの作成と実践プランの検討のための意見聴取を平成26年度の実施へと計画変更したことによる。 聞き取り調査を量的・質的に高めることを目的に、当初計画を変更し、平成24年度・25年度に引き続いて聞き取り調査を継続する。そのための、聞き取り調査の調査費用、調査結果のワーキングペーパー作成、関係者による研究会の実施、実施プランの検討のための意見聴取調査に、平成25年度収支状況報告書の次年度使用額を平成26年度助成金と合わせて使用する。 そのほかに平成26年度助成金は、平成26年度計画である実践プランの試行と成果検証、及び成果発表のための旅費、研究成果報告書の作成と研究成果報告会の開催等のために使用する。
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