多文化化しつつある日本社会における学校音楽教育の課題を国際理解教育の観点から明らかにするとともに、ドイツ等の先行事例等を参考にしながら、日本の学校音楽教育に向けての具体的な教材・方法を試行的に提示することを目的としている。 最終年度は、前年度までに収集したブラジルの子どもの歌の中から教育現場で教材として活用するに相応しい歌を選択するために、日系ブラジル人児童・生徒の保護者層を対象にアンケート調査を実施した。調査結果から、多くのブラジル人保護者がよく知っており、かつ歌に付随する手遊びや集団遊びが紹介された歌をとりあげ、学校の音楽教育や国際理解教育の活動プランを作成した。国際比較の対象であるドイツに関しては、1970年代以降のトルコ系移民の子どもを対象とした音楽教育の教材・授業開発研究から、近年はより多文化化した状況に合わせた研究へと向かいつつある傾向が明らかにされた。日本も多文化化の方向に漸次向かっていることから、ドイツの事例については今後も追跡し検討を続ける必要がある。さらに、多文化的状況を積極的に国の発展につなごうとしているカナダの教育政策も注目される。今後の研究につなぎたい。 研究期間全体を通して実施した研究成果としては、国際移動が子ども・若者の音楽的アイデンティティ形成にどのように作用するかを文化の継承・変容・複合化の観点から明らかにするために、日本に居住するニューカマーの子ども・若者及びその保護者への聞き取り調査を実施し、国際移動の背景をもつ子どもは日本での日常生活においても様々な場面で頻繁に文化間移動を経験していること、その中で家族で共有できる歌の記憶があることが文化的安定性の面で大きな意味をもつことが示された。研究成果は、日本音楽表現学会(6月)、第10回APSMER(7月・香港)で口頭発表、『関西楽理研究』Vol.32(12月)にて研究論文として公表した。
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