平成26年度は読解力向上のためのカリキュラムを検討するとともに学会発表や論文投稿を通じて成果の公表を行った。 話者の判断の表れる言葉に着目することで登場人物の言動を理解する方法について,「高瀬舟」の教材分析を行った。「高瀬舟」の教科書掲載を巡る「漱石・鴎外の消えた『国語』教科書」「教科書から消える文豪」といった論調の影響に注目し,何を教えるかとどう教えるかとの関係が逆転している事実を明らかにした。先行研究を検討する中で「高瀬舟」の主題の分裂の問題から,主題という読みの一貫性形成の収束点として使われる作者鴎外について考察した。教室で「高瀬舟」の特徴を生かした学習を成功させるためには,部分の解釈ができる力を学習者が獲得していることが前提となることが明らかになった。 また本研究で開発した解釈法を応用した教材研究の事例として『文学教材の解釈2014』を作成し,冊子で配布するとともに大学HPで公開した。重点を置いたのが叙述の考察である。一文単位で本文を引用し,その一文から読み取れる意味を記述した。解釈が分かれる箇所を明らかにし,それぞれの解釈の言語的な根拠を検討した。とくに動作を表す言葉(動詞やそれを修飾する言葉)や話者の判断が表れた言葉(助動詞,終助詞,副詞,副助詞)に注目した。 前年度に研究を進めた「走れメロス」における話者の判断や評価の表れる言葉に着目する文学教材の解釈については,論文として公開した。合理的な解釈法の開発を目的として,中学生,高校生,教師へのアンケート調査の結果を考察した。「走れメロス」の読者が特定の一文に集中して関心を寄せることが分かった。同時に集団の中の約半数の読者が他の読者の選ばない文に注目するという分散の傾向も指摘できた。解釈をめぐって対話を成立させるためには言葉の意味を論拠とした解釈を行うことが大切であることを明らかにした。
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