研究課題/領域番号 |
24531137
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
長井 克己 香川大学, 大学教育開発センター, 教授 (20332059)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 発音練習 |
研究概要 |
本研究は,語学学習における文字と音声の相互作用に関する実験を行うものである。 小学校での外国語活動では「音声に慣れ親しむ」ことが目標である。意図的に文字の指導・学習は排除され,使用率が8割を超えるといわれる「英語ノート」は,まるで子供用Audio-Lingualメソッドの様相である。文字指導・つづり暗記が英語嫌いを生むという,中学教員の指摘は尊重すべきだが,十分なinputを与えられていない段階で,いきなり音声のみでコミュニケーションをとる(実際は「とろうとする」だけで良い)ことには無理があるのではないか?また,中学や高校で学習者に新出単語の発音練習をさせる場合は,教科書を閉じて(文字を排除し),音声のみに集中すべきなのか?このような教師の疑問に答えるためには,音声のみで行う学習と,文字を併用する場合との違いを明らかにする必要がある。 音読やシャドーイングを利用した外国語学習が盛んに行われるようになっているが,その有効性について定量的に調査した研究は少ない。縦断研究を実際に教室で行う際,教材の難易度・馴染み度,視覚刺激(文字)の提示回数・時間などの統制が難しいからである。そこで本研究では,音声の強さ・長さ・高さと,提示文字の大きさ・長さを厳密に統制した実験を行い,言語学習において文字と音声をどのように提示するのがもっとも効果的であるのかを定量的に測定する.初年度の本年度はまず先行研究を調査し,語学の教室において教師のモデル発声の後に学習者が繰り返す練習のさまざまなバリエーションを整理した。単純な繰り返しと教師と学習者が同時に声を揃えるシャドーイングに近い形式では,どちらがより自然な発話を誘発するかについて予備実験を行い,その音響特性を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は所属研究機関の都合により,研究室の移転を2回実施する必要があり,それに伴い実験室(防音室)および 付帯設備装置を解体・保存・移転・再構築する必要が生じた。そのため数ヶ月にわたり実験を中断せざるを得ない時期があった。
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今後の研究の推進方策 |
習得を目指す言語の基本語彙が持つ意味や,その音韻構造,さらにその正書法を長期記憶として学習者がいつでも利用できることは,それが明示的に説明できるかどうかに関わらず重要である.それらの重要性には階層性があり,英語を例にすれば既知の英単語を並べだけのレベルから,文法的ミスのない英文を書けるレベルまでのcan-doリストと対応させることが出来る.一方,語彙の記憶には短期記憶・ワーキングメモリが重要な役割を果たしており,一時的な記憶を如何に定着させ,長期記憶化させるかが言語習得では重要なポイントとなる.24年度の準備・予備実験期間を踏まえ,今後は語彙と文法・正書法の獲得がどのように促進あるいは妨害されるかを,さまざまな音声提示方法と文字提示方法で明らかにすることを目標とする. 具体的には,音声を題材に練習する場合その自然性に大きな影響を与える言語のリズムについて,Delayed Feedbackの枠組みで実験を行う.例えば全体のリズムを優先して再生しようとする場合は,一音節目と二音節目で微調整の方向(速すぎるか遅すぎるかの調整)が同一になるが,個々の音節を一々微調整しようとする場合(試行錯誤の状態)では,一拍目が遅すぎた場合,二拍目を速くしようと途中で制御の修正が生じる.このような微調整の方略は音声の遅延聴覚フィードバック(Delayed Auditory Feedback, DAF)で乱れることが知られており,当然語学学習時の音読やシャドーイングのように音声のずれを許容する練習でも乱れるはずである.その精査は学習者がどのように対象言語を心理的に扱うかに迫りたい。 実験が当初の計画通りに進まない場合,実験条件を遂行可能な場合に絞ることも視野に入れておく.提示する音声と文字の語数を制限する,アクセント(強勢,ピッチ,時間長)を単純化する等の方法が考えられよう.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では言語習得のために教室で行われる活動(リピーティングやシャドーイング)について,音声のみで学習を進める場合と,文字を併用する場合とで,どちらが有効かを調べるものである.よって,プレテストの後,両条件で一定期間学習を行い,ポストテストを行うのが基本形である. 音声の高さ,長さ,強さ等の諸条件と,文字の色,大きさ,書体等の諸条件,および両者のミリ秒単位の高精度な統制のためには,専用に開発されたデータ提示装置と収録装置が必要となる。そのような厳密な実権を経て初めて,教師のモデル発音が持つべき望ましい速度やアクセント,教師の板書やフラッシュカードの文字の大きさや提示頻度などへの具体的な提言が可能となる。 本研究の予算配分では次年度は本実験とデータの整理,発表に重点を移す予定となっている。データ収集時の学習時の発声は録音・分析してその物理的特徴を記録し,今後の音声と文字を同時に使用する条件での実験と,さらに実際の英語学習者を対象とした縦断的研究に備える。
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