昨年度までの予備調査・実験を元に本実験を実施した。初年度以来続いた所属研究機関の改修工事により研究室・実験室・防音室の退去と移設の必要が生じ,また実験時に大きな騒音が生じ,実験の中断が何度も生じたことから計画にやや遅れが生じたが,本年度は3つの験を準備・実施した。本報告作成時点ではそのデータの分析が継続中であるが,本年度に学会報告したのは以下の実験である。 音読やシャドーイングを利用した外国語学習が流行しているが,その有効性についての研究は教室場面で統制群との成績比較を行ったものがほとんどで,教材の難易度・馴染み度,視覚刺激(文字)の提示回数・時間などを厳密に統制することは大変難しい。そこで本研究では,母語と目標言語の学習到達度の影響を排除する目的で,無意味音節の学習実験を行った。試験語の提示の際に文字の大きさ・長さを厳密に統制し,言語学習時に学習対象言語をどのように提示し練習させるのがもっとも効果的であるのかを定量的に測定した。具体的には,無意味語を1音節ずつ前方と後方から伸張して12名の日本語話者に提示し,人工的に言い誤りを生起させて録音した。言い誤りの有無を点数化して比較したところ,試験語を前方から伸張した場合の方が,後方から伸張するよりも良好な成績となった。 実験参加者の外国語学習到達度(TOEICリスニング・リーディングスコア)との相関は弱かった。言い誤りを欠落・追加・置換に3分類したところ,試験語の一部が異なる音素と入れ替わる置換エラーが最も頻度が高く,試験語に含まれない音素の追加エラーが最も少なかった。子音や母音のみで誤りが生じることは少ないことや,調音位置などの素性が共有されることが多いことも明らかとなった。
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