本研究の目的は、スズキメソードとは何かを、教師たちに内在する視点から捉え直すことである。外在的な教育行為や方法次元の特徴に留まらず、教師たちの間に内在化されているエートス、すなわち教育実践を支える行動原理となっている価値や信念に焦点をあてることで、スズキメソードを、その教育哲学の次元から一つの全体として理解することができると考えられる。 本研究では、始めに、日米一人ずつの指導的な立場にあるスズキ教師に対して非構造化インタビューを行い,最も中心的に語られたトピックを取り出し比較する研究を行った 。メソードを固定したものととらえず,「常に試行錯誤し続ける」態度や、「一人ひとりの子どものありようを尊重する」する故に「それに合わせて工夫すること」を教師の責務とする姿勢など、「スズキ教師」としての行動の原理となるような価値観や信条といった独自のエートスがあることがわかった。 次に、スズキ教育論の原点を志向する夏期学校を日米において選び出し、そこに集う教師たちに行ったインタビューから、双方に共通する主題を取り出すことにより、スズキメソードの哲学が、今日の教育の担い手たちにどのように受け継がれているかを明らかにした。そこでは、「音楽を通した人間教育」ということの内実が示され、特にすべての子どもの成長を求め競争主義を否定する思想が、「斉奏」の意義、教師同士が学び合い教え合う共同体のあり方、親としての成長、他者の尊重等、実践の姿に生きるものとしてとらえられた。
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