本研究の目的は、音楽経験の浅い教員養成課程の学生が自らの力で楽譜から音楽構造を読み取り、主体的に旋律を表現できる力を養うための教授法を開発することである。 まず、抑揚、リズムに関する先行文献の成果を整理した上で、必ずしもそれにうまく当てはまらない場合にも表現を分かりやすく示すことのできる「拍子の型」を用いてフレージングを考案し、表現曲線を使って指導する方法を導き出した。 同時に、具体的に教員養成課程のピアノ指導や弾き歌いでよく用いられる楽曲を多く取り上げて、分析を行った。前年度に引き続き、本年度はソナタなどの多楽章形式の楽曲に加え、J.S.バッハの《インヴェンション》《平均律クラヴィーア曲集》など多声音楽も取り上げ、多楽章形式の曲と同様に、プレリュードとフーガの間の連関を明らかにして、表現方法を示すことができた。その方法を用いて教員養成課程の学生への指導を行い、その結果をフィードバックして教授法を吟味した。 最終年度である平成27年度は、本研究の成果である教授法を用いて、小学校・幼稚園・保育士養成課程の学生に継続して指導した後、指導法の効果について確かめる実験を行った。指導の実際において、その効果は実感できるものの、一般に音楽表現についての客観的な評価は難しい。本研究では一対比較法を用いることにより、その可能性を確認することができた。 また、本研究で得られた旋律表現法に関する知見を総合して体系化し、前年度にまとめた原稿を一般の音楽愛好家を対象とした分かりやすいものに再度書き直し、『究極の読譜術――こころに響く演奏のために――』として出版した。
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