研究課題/領域番号 |
24531169
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
矢田部 清美 慶應義塾大学, 先導研究センター, 助教 (90455410)
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研究分担者 |
細田 千尋 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 先進脳画像研究部, 研究員 (20578976)
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キーワード | 数学的処理 / 近赤外分光法 / 核磁気共鳴画像法 |
研究概要 |
本研究の目的は,数学的処理といった高次脳機能を必要とする問題解決・スキル獲得に対する神経基盤とその可塑性機序を明らかにすることである。従来数学的処理には特定の認知モジュールが機能していることが知られている。本研究では数学的処理に他の言語・感覚運動処理等にも広く用いられる認知モジュールも関与しているのか,それらに経験の違いが影響するのかを検討している。 本年度は,主に,数学的処理といった高次脳機能を必要とする問題解決に対し,経験差のある個人間・課題間における行動的及び生理的反応の差異について,共時的な視点と通時的な視点に基づき,実験を施行した。共時的な視点では,個人間の差をみる課題として,健康成人約80名に四則演算など明確なアルゴリズムがない中で,問題解決を図り問題空間内を探索する状態遷移オンラインゲームを試行してもらう一方で,核磁気共鳴画像法による脳構造画像検査を施行した。さらに学習過程がどのように問題解決のための意思決定に影響するのかを確認するために同ゲームを改良し別の約90名に施行した。一方,課題間の差をみる課題として,若年群を含めた約80名に二種類の推論ボタン押し課題をしてもらうのと同時に,近赤外線分光法による脳血流動態検査を施行した。通時的な視点では,課題間の差をみる課題の被験者群に,その後約1ヶ月の異なる種類の学習期間を設けることで,学習前と学習後の課題施行と脳血流動態検査を年度内にほぼ終了した。さらに,これらの実験結果に対し,初年度及び本年度に検討した個人・課題間の差異を共時・通時的に評価する手法の適用を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度初めの本研究代表者の機関変更に伴い,研究環境が変わり,研究計画当初予定していた実験計画を修正せざるを得なかったが,数学的処理といった高次脳機能を必要とする問題解決に対し,経験差のある個人間・課題間における行動的及び生理的反応の差異について,共時的な視点と通時的な視点における変化について実験するという本年度の目標をおおむね終えることができた。 とりわけ,日本国内で児童期・思春期・成人期の各被験者を新規に募集する経路を開拓することや若年被験者の脳機能検査を施行する設備貸与や手法の習得に成功することで,異なる課題や学習期間の有無などの差異による数学的処理の変化の有無を新たな視点で明らかにすることが可能になった。これらの結果が各発達時期における学習法改善に役立つことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたり,数学的処理といった高次脳機能を必要とする問題解決に対し,経験差のある個人間・課題間における行動的及び生理的反応の差異について,共時的な視点と通時的な視点における変化について解析と分析を進め,国内外に発表をすることを最終目標とする。 解析と分析段階では,これまでに明らかになった点を精査すると同時に,被験者数の追加が必要な場合には検査をさらに行うことや,異なる視点に基づく追試実験の要請が予想される。これらの過程を経て,共時的や通時的な視点および異なる視点,例えば時間分解能にすぐれた検査器具を用いた脳機能検査などを追加することで,仮説検定の結果を補強するエビデンスを揃えていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
共同研究先の検査設備を貸与することになった場合,その貸与料(国外での検査の場合には渡航費),個人の学習過程を検討する上で,学習用具を購入もしくは貸与料が必要と予定していたが,新たな研究先での代替検査設備等が無償で貸与されたため,その分については未使用額として翌年度に使用可能となった。 検査参加者に対する謝金・検査補助者への謝金に加え,検査設備の消耗品・保守保全費は小額ながら実費負担となった。 今年度も検査設備の消耗品・保守保全費は実費負担が予想される。また代替検査設備での実験で新たな知見を得る結果が得られたが,現在使用の検査設備では計測不可能な点については,研究結果の精度を高めるために,別途追試実験設備として,別の共同研究先の検査設備を貸与もしくは自己の実験設備の調達が必要になると考えられる。また,これまでの研究結果を発表,関連する他研究の調査費などを計上予定している。
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