本研究では、「吹奏楽コンクールにおける下位成績スクールバンドの指導者育成とその方法の実験的研究」と題して、申請者が指導することを通して、指導者の指導力向上を目指すことを試みた。現場の指導者にアンケートを実施し、指導において抱えている問題点を把握した上で、実際に申請者が現場に赴き、指導を行った。 1年目は、管楽器吹奏における「息の流し方」に着目し、申請者の提唱する「fWO(フォー)」という吹き方を理解させることにより、「地声的な音」から「歌われた音」に導くこと、即ち、音質の改善を目指すことに主眼を置いた指導を行った。2年目には、『ピッチ(音程)』を合わせることに主眼を置いた指導を行った。吹奏楽で使用する楽器が、いわゆる『作音楽器』であることを説き、奏者自らが正しい「音程」を確認しながら演奏する必要があることを認識させた。その上で、指導者自身が生徒達の演奏を耳にし、音程のズレ(響きの濁り)を認識できること、また、そのズレをどのように改善していくかの指針を申請者自らが指導を行うことで例を示した。更に、「楽器を鳴らす力」及び「音感」を養うための練習(訓練)を同時進行で行うことの必要性を説き、正しく捉えた音程を楽器で鳴らす音に反映させるというプロセスを意識しつつ実践した。最終年では、『音』そのものから、『音楽』に意識を向けるスタンスで、総合的な「合奏力向上」を目指して進めた。指導を単なる『音』への物理的な処理という側面のみではなく、指導者が『音楽的』にどうあるべきかと捉えた上で、自らの音楽イメージに則して演奏を向上させていくことの重要性を説き、実践した。本研究を通して、現場の指導者が吹奏楽指導を行う上で自分自身に不足している力を具体的に認識できるようになってきていることが発言から認められた。また、吹奏楽コンクールでの審査評価においても向上が見られた学校が複数あった。
|