研究課題/領域番号 |
24531209
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
吉田 敦彦 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (20210677)
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研究分担者 |
今井 重孝 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (80160026)
西平 直 京都大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90228205)
西村 拓生 奈良女子大学, 文学部, 教授 (10228223)
永田 佳之 聖心女子大学, 文学部, 教授 (20280513)
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キーワード | 教育学 / シュタイナー学校 / ホリスティック教育 / 公共性 / オルタナティブ教育 / ESD / 多様な学び保障法 / 総合的学習 |
研究概要 |
研究計画に示した四つの研究の柱――[A]自己評価法を組み込んだカリキュラム開発、[B]総合的ESDカリキュラムの公共化、[C]卒業生への追跡調査、[D]オルタナティブ教育機関の公共性研究について、以下の通り研究を進めた。 [A]昨年度に引き続き、シュタイナー教員養成課程をもつニュージーランド(NZ)・オークランド工科大学にて、ニイル・ボーランド教授の協力をえて、NZシュタイナー学校連盟が独自に開発した認証評価システムの現状と課題に関する調査を行った(2013年8月)。また学校法人化して2年目にあたる藤野のシュタイナー学園高等部において、学習の評価方法をめぐる課題等について情報収集を行った。 [B]シュタイナー学校の総合的なESDカリキュラムを、ホリスティック教育の観点から位置づける研究を継続した。「教師のためのシュタイナー教育ゼミナール」を開催して公教育関係者と共有し(2013年4月~2014年3月)、カリキュラムの公共化へ向けた課題をリサーチした。シュタイナー学校のカリキュラム開発や教員養成を含めた連携を組織・制度的に支えるために、質保障の自助組織:「日本シュタイナー学校協会」の創設(2013年8月、正会員7校)に関わるアクションリサーチを行った。 [C]昨年度行った卒業生への予備調査(2012年8月)の結果を再考し、調査を実施する際の問題点について、質的研究の諸理論に関する資料を収集・分析しながら検討した。引き続き、予備的な面談調査(数名の卒業生とのグループ面談を含む)を重ねた。 [D]オルタナティブ教育を含む「子どもの多様な学びの機会を保障する法律」の法案作成に専門的立場から参画したほか、法案制定後の「学習支援機構」(仮称)の自助機能を構築するための足場作りとして、「第1回オルタナティブな学び実践交流研究集会」(2014年2月)の開催を主導して研究体制を強化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[A]自己評価法を組み込んだカリキュラム開発については、先進事例(NZのシュタイナー学校が開発したカリキュラム認証評価)に関する実態調査を行うことができた。ただし、結論的には、その評価基準を運用するにあたってNZのシュタイナー学校のあいだでも課題が山積しており、その分析紹介は時期尚早であることが明らかになった。また、日本のシュタイナー学校での事例も検討し、評価法の開発に先んじて、まずはシュタイナー学校の間で、相互に教育の質を保証するためのセルフ・アシュアランス機能を高める必要があるとの認識に至った。 [B]前項で述べた質の保証のためには、カリキュラムや教材開発の協働化や教員養成の連携などが課題となり、それを研究推進していくための自助組織を立ち上げることができた(専門会員としてアクションリサーチ)のは、本年度の成果である。とりわけ、連携型の教員養成へ向けて、シュタイナー学校の総合的カリキュラムを、現職教員とともに学びあう教員養成講座などのプログラム化に具体的な実績を得た。 [C]卒業生調査に関しては、5名、3名、4名といった単位でグループディスカッションを交えた予備的面談調査を重ねることができた。モデル事例の抽出は可能な段階まで到達しており、質的なライフストーリー調査をするための足場は固まりつつある。しかし、その対象の多様さを考慮に入れるときに、量的調査との組み合わせが必要であり、調査の目的の明確化と方法論の工夫が必要になっている。 [D]「子どもの多様な学びの機会を保障する法案」に関する政策上の論点の整理を進めることができた。そのプロセスで、オルタナティブ諸学校におけるシュタイナー学校の位置づけをめぐる議論が深まり、この30年来の日本のオルタナティブ教育運動の全体としての到達点と課題も明確になった。 以上のように[A]~[D]の各項目について、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題[A]については、上記のような調査結果を踏まえて、ニュージーランドの認証評価モデルを参照した開発は中断する。それに代えて、日本のシュタイナー学園高等部で直面している評価方法をめぐる課題についてリサーチする。京田辺シュタイナー学校では、卒業プロジェクトの実績が量的にも一定数に達しているので、指導教員とともにその評価について共同研究したい。 [B]については、引き続きカリキュラムを公教育関係者と共有し学び合う講座を開催し、その講座を基盤とした研究会を組織・運営する。また、2014年11月に開催されるESD国連10年の総括大会(ユネスコスクール世界大会)に向けたプロジェクトも継続し、ユネスコスクールにおける普及・一般化の可能性を探る。本年度は、とくに首都圏のユネスコスクールに認定された他の2つシュタイナー学校と連携した研究調査も開始する。 [C]については、これまでの予備調査をもとに、質問項目の検証・修正ののち、モデル・ケースの質的調査をナラティブ・アプローチによって試みる。ただし、これまでの予備調査によって明らかになった問題を踏えて、慎重に行う。 [D]については、25年度に首都圏できたオルタナティブな学び場を共同で研究していく組織基盤を関西にも拡張して、オルタナティブ教育の公共化に向けたアクションリサーチを全面的に展開したい。具体的には、全国のオルタナティブ学校を結集する「第2回オルタナティブな学び実践交流研究集会」を大阪府立大学で開催する(2015年2月)。そのプロセスで、シュタイナー学校を含む日本のオルタナティブ教育の到達点と課題を明らかにし、その成果を社会的に還元したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として旅費において次年度繰越金が生じた。 その理由は、全国各地に散在する研究代表者および分担研究者が一同に会しての研究会を予定していたが、やむを得ない事情により次年度に先送りしたためである。 [A]については、高等部レベルの単位認定基準の制作に関わる費用(人件費・印刷費)。[B]については、ユネスコESD大会等のイベントに参加するための出張旅費。[C]については、日本各地のシュタイナー学校を横断する研究連携組織へのアクションリサーチに関わる費用(出張旅費・調査結果の資料整理等にあてる人件費)。[D]については、「子どもの多様な学びの機会を保障する法案」に関する運営連絡会に参加する出張旅費、および「オルタナティブな学び実践交流研究集会」を含む関西での研究会展開のための会議費。 加えて、分担研究者と情報共有を行う研究会開催等にかかる費用(会議費・印刷費)に使用する。
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