研究課題/領域番号 |
24531225
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
中井 賢一 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (90580960)
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キーワード | 日本古典文学 / 教材開発 |
研究概要 |
本研究の目的は、学習者の多読を促進できる教材の不足が古典(古文)離れの一因である、との現状認識のもと、学習者が自己自身を重ね合わせやすい(=心的距離の近い)物語、かつ学習者が事故の未来に向けた規範にしやすい(=成長への意欲を喚起する)物語を集成したリーディング教材集を高等学校現場向けに作成し、古文の多読を促す指導環境を整備することにある。すなわち、学習者自身が様々な厳しい「環境」の中で、それらとの前向きな関わり方について深く思索できるような〈困難を克服する子ども物語〉を、新資料も含めできる限り多く教材化し、極力、申請者自身がその学習者への効果を臨床的に検証した上で、「テキスト」・「注釈」・「指導例」から成る「教材」としてまとめ、現場の教員が活用しやすいかたちで広く公開できるよう体制を整えることが最終目標である。 そのため、三年の研究期間のうち、第二年目に当たる本年度は、平安期物語の教材化と、鎌倉・室町期物語の教材化を、併せ実施した。前者は、第一年目からの継続作業であり、後者は第一年目に行ったプレスタディをもとにした作業で、鎌倉・室町期成立の、上記目標に合致するであろう場面の検索・抽出と、具体的な教材化作業である。 高等学校の教室ではまず目にすることのない『浜松中納言物語』『兵部卿物語』『松陰中納言』『雲隠六帖』『八重葎』等、新奇性の強い「テキスト」での「教材」作成が進んでおり、今後とも、上記目的に合致したリーディング教材の選定・作成に鋭意努力したい。 なお、具体的成果の一部について、二本の学術論文、一回の研究発表として公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究期間は、平安期物語作品の教材化を進めつつ並行して鎌倉・室町期物語の資料収集を行う第一年目、引き続き鎌倉・室町期の資料収集を継続しつつ具体的教材化も進める第二年目、そしてそれら成果の再検証と発信体制を整える第三年目、と大きく区分される。 本年度については、鎌倉・室町期物語の資料収集と教材化を同時進行で実施したのであるが、ほぼ計画通りの進捗状況であった。但し、「指導例」については、過度に詳密な設定を行わない方が、むしろ汎用性が高くなるようであり、今後、当初計画からの修正を適切に図りたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
第三年目に当たる平成26年度は、昨年度に引き続き鎌倉・室町期物語の教材化を進めること、及びここまでの成果を再検証しつつ発信体制を整えることを、二つの柱に据えて研究を実施する。 前者については、概ね第二年目と同様に進める。後者については、まず教材としての有用性や適切性の検証を行わねばならないが、視点の偏向を避けるため、当初計画通り外部有識者より専門的知見の提供を受けたい。続いてそれを踏まえて適宜修正を加えた後、報告書やホームページ等を通じて情報発信できるよう、体制を整える予定である。 但し、常に研究の進捗状況に鑑み、柔軟に計画の全体像を修正しながら、着実に成果を蓄積することを最優先するものとする。特に教育の現場に少なからず関わるため、拙速に陥ることなく、慎重に作業を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の成果を、二本の論考、及び一回の研究発表として公表したが、いずれも投稿料や発表料を必要としない学術誌や学会であったため、当初計画に計上していた「投稿料」等の経費分が余剰金となった。 また、専門的知見の提供を受ける際も、相手が旧知の間柄であり、「謝金」の固辞があったり、改めて訪問すべきところが学会出張時に面談が叶い「旅費」が不要になったりと、これも当初計画よりの余剰金が発生した。 昨年度に、臨床研究に力を入れるための方策として急遽プロジェクターを購入したため、当初計画の「辞書類」「作品論関係図書」の設備が手薄となっていた。本年度もそれを補うよう努めたが、高価なこともあり、未だ不十分である。そのため作業がスムーズに進まないことも多く、特に「辞書類」は歴史資料を扱う上で必携のものである。引き続き、これら十分でない書籍の購入に充てることで、研究の進展と効率化を図りたい。
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