本研究の目的は,1)通常学校に在籍する健康障害児の自尊感情の発達傾向とその影響要因を横断的な調査によって明らかにすること,2)通常学校に在籍する健康障害児に対する教育支援を通して,適切な自尊感情の形成・変容に有効な教育支援方法について検討することであった。そこで,通常の小中学校,特別支援学校,特別支援学級に在籍する小学3年生から中学2年生までの児童生徒を対象として,自尊感情の発達傾向に関する横断的調査を実施した。また,健康障害児を対象とする発達支援教室を継続し,その中で対象者の自尊感情を個別的に縦断的に調査した。自尊感情の測定には,Harter (1985) を参考として研究者が作成した自己認知尺度を用いた。この尺度は,自尊感情下位尺度と5領域の自己評価下位尺度 (学業能力,社会的承認,運動能力,身体的外見,品行),そして自己評価と同じ5領域の重要度評価下位尺度から構成された。 横断的調査の結果から,①小中学生は自己評価の各領域を概ね弁別的に認知できること,②小学生から中学生にかけて自尊感情得点は低下すること,③小学生から中学生にかけて自己評価および重要度評価得点は上昇する領域,低下する領域,変化しない領域があること,④重要度評価得点は健康障害児の方が小中学生よりも変化しにくい可能性があることが示唆された。また,健康障害児を対象とした個別的,縦断的調査から,自尊感情の経年変化は自己評価と重要度評価の変化に関連があることを示唆する結果が得られた。 以上より,自尊感情の維持・向上のための教育支援方法として,有能感や適切性の変化 (たとえば,「私は運動がよくできる」/「あまりできない」) だけでなく,特定の領域おける重要度評価の変化 (たとえば,「私にとって運動ができることは重要だ」/「それほど重要ではない」) に注目することが有効であると推察された。
|