研究実績の概要 |
本研究では,遠隔配信を含む文字通訳において,初等・中等教育段階にある聴覚障害児に適用化するための要約手法を明らかにすることを目的としていた。 まず,通常学校に在籍する聴覚障害児の保護者から授業時の情報保障やコミュニケーションの伝達,学力等に関する課題についてニーズを収集するとともに,国語の指導等で用いられるリライト文の加工方法,リライト文を用いた指導,要約文の特性,要約の技術・評価,聴覚障害者の情報保障の1つである要約筆記に関する先行研究のレビューを行った。 次に,初等・中等教育段階にある聴覚障害児を支援対象としたパソコン要約筆記を行う場合,どのような要約手法をとりうるのか,高等教育段階にある聴覚障害学生を想定した入力と比較しつつ実験的検討を行った。対象者は,教育学部等に在籍する聴覚障害を持たない大学生10名とした。入力課題文は,リライト教材集,要旨要約問題集等に集録されている題材から10編(1つの課題文は449~645文字)を選んだ。対象者は入力課題文を聞いて,小学校高学年レベルの言語習得段階にある聴覚障害児を支援対象と想定したPC要約筆記を行った。また,タイピング速度が200文字前後/分以上であった4名を統制群として聴覚障害大学生を支援対象と想定したPC要約筆記を行った。 その結果,聴覚障害児を支援対象と想定したパソコン要約筆記の入力文では,原文や大学生を想定した入力文と比較して1文あたりの文字数が少なく,「省略」「言い換え」「統合・圧縮」の要約手法が多く用いられていた。「言い換え」については,理解困難が想定される字音語や,それらを含む語句,比喩的要素をもつ慣用句などについて,より平易で具体的にイメージしやすい表現に置き換えられていることが多かった。また,「統合・圧縮」が行われる際には,同時に「省略」や「言い換え」も行われていることが多いことが明らかになった。
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