研究課題/領域番号 |
24531272
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研究機関 | 別府大学短期大学部 |
研究代表者 |
阿部 敬信 別府大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (90580613)
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キーワード | 聴覚障害教育 / バイリンガル・アプローチ / 日本手話 / 言語発達 / 認知発達 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本手話と日本語によるバイリンガル・アプローチを用いた特別支援学校(聴覚障害)に在籍する小学部児童の言語発達と認知発達の実態を明らかにすることで、バイリンガル・アプローチの有効性と各教科における指導法を検討することにある。 研究二年次である平成25年度は、平成24年度に続き、日本手話の言語発達の実態のために、Morgan(2006)を参考にし、絵本「Frog, where are you?」の手話語りデータの収集を行った。小学部児童33名のデータを収集できた。また、平成24年度に同じ方法で収集した小学部児童32名の内、聴覚のみの障害であると考えられる児童23名分のデータについて、平均発話長、TTR、エピソードスコア、結束性について分析を行った。その結果、小学部高学年で「学習言語」としての手話に発達していることを明らかにできた。 次に、日本語の言語発達については、平成24年度に絵本「Frog, where are you?」の場面に基づいて日本語の絵本を作成するという課題で収集した日本語作文データ21名の内、聴覚のみの障害であると考えられる児童14名分のデータについて、文産出量、語産出量、文の長さ及び複文の割合で分析を行った。その結果、小学部6年になると複文を用いた複雑な文構造を産出できるようになっていることが分かった。 認知発達については、DN-CAS認知評価システムを小学部児童24名に対して実施した。その内20名を対象として、3年前のDN-CASの13名の結果や公立特別支援学校(聴覚障害)で実施した27名の結果と比較分析を行い、学年相当の認知発達をしていること、3年前や公立の結果と有意差が認められないことなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本手話の言語発達については、平成25年度も予定どおりMorgan(2006)の手順によって、絵本「Frog, where are you?」の小学部児童31名の手話語りデータを収集するとともに平成24年度の手話語りデータのトランスクリプトを作成して分析することができた。その結果、日本手話が「学習言語」レベルの発達をしていることを明らかにできた。日本語の言語発達については平成24年度に収集したデータを分析し、日本手話・日本語バイリンガル児童の日本語発達の実態について語産出量などの量的な発達とともに文構造の質的な発達を実証的に明らかにすることができた。これは本邦初のことである。これに関しては計画以上に進展しているといえる。 認知発達についてはDN-CAS認知評価システムによる認知発達のデータを、平成22年度に引き続き、その3年後となる本年度に24名分のデータを収集することができ、その内の20名分については、3年前のデータや公立特別支援学校(聴覚障害)で収集したデータと比較分析することができた。ただし、下位検査「文の記憶」の日本手話版についてはその可能性を検討しただけに終わっている。この点について考慮し、総合的には、おおむね順調に進展していると判断する。 各教科の指導法については、日本語科の指導方法として優れた実践例を抽出した。さらに、日常の授業の流れの中で、日本手話と日本語という二つの言語を相互に行き来する機会が自然な形で埋め込まれていることを明らかにした。これらについては、第6回バイリンガル・バイカルチュラルろう教育シンポジウムで発表するとともに、大学紀要において論文にすることができた。これに関しては計画以上に進展しているといえる。 これらを総合的に評価し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
日本手話の言語発達については、平成25年度に収集した絵本「Frog, where are you?」の手話語りデータの33名分のデータのトランスクリプト作成とネイティブチェックを受ける予定である。これによって、平成22年度からの4年間にわたる分析データの準備を完了する予定である。 日本語の言語発達については、日本語作文データ14名分について誤用や文の使用についていくつかの視点からさらに分析を進める予定である。さらに、公立特別支援学校(聴覚障害)小学部児童の日本語作文データを同じ方法で収集することで対照群として比較できるようにしたい。 認知発達については、平成25年度の分析に間に合わなかったデータを加えて再度分析するとともに、未実施下位検査である「文の記憶」の日本手話版の作成について研究協力校と協議を続ける予定である。 各教科の指導法については、授業を収録したビデオデータから、まだトランスクリプトの作成ができていないものがあるので、引き続きトランスクリプトの作成を行い、分析対象の授業数を増やしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費において、日本手話手話語りデータや各教科等の授業のビデオデータを、平成24年度まではDVD及びDVテープによって保存していたものを、平成25年度よりブルーレイレコーダー及びブルーレイディスクに記録する予定であったので、その購入を検討していた。しかしながら、別途購入されたブルーレイレコーダーを譲渡されたことから、それを活用することにしたために次年度使用額が生じた。 次年度においては、現在はレコーダー内のHDDに保存しているビデオデータを、いずれはブルーレイディスクに保存しなければいけなくなるので、ブルーレイディスクの購入やビデオ撮影の方向を増やすためのHDビデオカメラの購入に充てたいと考えている。 また、研究対象校は我が国で唯一の日本手話・日本語バイリンガル・アプローチを用いている特別支援学校(聴覚障害)であって、東京都品川区にあることから、報復に航空機を用いている。トランスクリプトの作成のネイティブチェックなどの調査研究などのために、引き続き研究者の所属する大学がある大分県と研究対象校がある東京都の往復旅費及び滞在費や研究成果発表のための学会開催地との往復旅費及び滞在費に使用する予定である。
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