本研究の目的は、ミラー対称なK3曲面を有限体上や代数体上で考察し、数論的観点からミラー対称性の精密化を試みることである。考察するK3曲面は、重さ付き3次元射影空間内において、デルサルト型方程式(及びその1次元変形)により定義される代数曲面で、反シンプレクティックな対合を持つものである。 研究計画の最終年度である平成26年度は、ミラー対称なK3曲面を代数体上で考察し、L関数及びその特殊値における対称性の検出を試みた。研究対象は、1次元変形の付いていないデルサルト型K3曲面である。そのような曲面の中でミラー対称となるものを考察し、L関数のモジュラリティに関する対称性を検出した。また、L関数の特殊値における対称性を(構成因子であるゼータ関数のレベルで)部分的に確認し、いくつかの曲面に対しては、計算機を用いてゼータ関数の特殊値を数値的にも計算した。26年度もメールによって研究協力者の由井典子氏と連絡を取り合い、東京とカナダで2回の打合せを行った。また、数論幾何に関する研究集会「函館数論幾何ワークショップ」(2014年5月26日~2014年5月28日、函館市中央図書館及び北海道教育大学函館校)を開催し、専門家らと集中的に議論した。 研究期間全体の成果は、次の3点である。 (1) 形式的ブラウアー群の高さに関して対称性を有するK3曲面を見つけ、ミラー対称性の精密化を図った。(2) デルサルト型K3曲面のゼータ関数をヤコビ和等を用いて記述し、それを用いて定義されるL関数に対して、モジュラリティのレベルでミラー対称性を検出した。(3) 上記(2)で求めたK3曲面のゼータ関数の特殊値を計算し、部分的にミラー対称性を検出した。 これらの結果は、数論的観点からミラー対称性を議論する手掛かりを与えたことが重要であり、同時に、計算可能な実例を数多く見つけられた点で意義をもつ。
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