研究課題/領域番号 |
24540008
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 義久 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (20294522)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子群 / 結晶基底 |
研究概要 |
今年度は主に次のテーマを中心に研究を行った. (1) 結晶基底の幾何学的理論と,それに付随する組合せ論:アフィングラスマン多様体の幾何学に起源を持つMirkovic-Vilonen凸多面体と結晶基底の関係を調べ,以前研究代表者自身によって得られていた成果を大幅に精密 化した.この成果を12月に韓国のチェジュ島で行われた国際研究集会で口頭発表した,また,成果をまとめた研究論文を欧文専門誌に投稿し,掲載が決まった. (2) 代数群の表現論の応用:A型シューベルト多様体に付随するD-加群の特性多様体に関する研究を行った.この問題は,A型以外の一般の代数群に対しても定式化されるが,一般には特性多様体は既約になるとは限らない.1979年にKazhdan-Lusztigによって「A型ならば特性多様体は必ず既約になるだろう」との予想があったが,これも1997年のKashiwaraと研究代表者の共同の結果によって,否定的に解決されている.したがって問題は「特性多様体がどのような既約成分を持つか,記述せよ」ということになる.しかしながらこの問題はワイル群のleft cell表現とSpringer表現の対応や,正標数におけるリー代数の表現論等,代数群の世界では比較的有名な問題と密接に関わっており,難しい問題であると考えれてている.この問題に関して,研究代表者のこれまでの研究によって得られた「結晶基底の理論を用いて,特性多様体を決定問題を組合せ論の問題に還元する方法」を用い,A型で比較的ランクが小さい場合に,特性多様体の具体形を完全に決定した.決定にはコンピュータによるプログラムを用いる.通常,特性多様体の計算にコンピュータを用いることはほぼ不可能であるが,結晶基底の理論を仲立ちにすることで,これが可能となる.この点が本研究の強みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると考えている. (1) 結晶基底の幾何学的理論とそれに付随する組合せ論について:上述のように,既存の成果の大幅な精密化を行うことが出来た.ここがクリアされたという点で,最低限の目標は達成出来たと考えている.ただし,アフィンA型の場合には,まだまだ未解決の問題が多くあり,残念ながらこの点に関しては十分に目標が達成出来たとは言い難い状況にある.特に,2011年に発表された,Bauman-Kamnitzer-Tingleyによる,アフィン型Mirkovic-Vilonen凸多面体の理論と,研究代表者による研究は,アフィン量子群の結晶基底という同じ対称を扱っているが,その定式化が全く異なる.両者を比較することは重要な課題であると思われるが,現時点では有効な成果は得られていない. (2) 代数群の表現論への応用について:これは,当初計画案では主に2年目以降に行う計画であったが,思った以上の進展が得られたので,多くの時間をこの部分に割く形で研究を行った.現時点ではコンピュータによる計算実験の域を出ないとはいえ,1年目としては充分な成果が得られたと考えている.また,多くの具体的データが得られたことで,これまで考えもつかなかった予想がいくつか得られた.この点も計算実験によって得られた大きな成果であると考えている. 以上をまとめて,1年目の計画案のうち,多少不満な部分はあるものの最低限の目標はクリア出来たとうこと,代数解析学への応用に関して当初計画案では予想していなかった大きな進展が得られた,という2点を鑑み,自己評価としては『研究はおおむね順調』としたい.
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今後の研究の推進方策 |
各テーマごとに分けて記述する. (1) アフィングラスマン多様体の幾何学とquiver多様体の幾何学の関係の解明:上述のように「結晶基底の幾何学的理論とそれに付随する組合せ論」に関しては,今年度の研究でほぼ満足の得られる成果が得られたので,当初研究計画案にしたがって,アフィングラスマン多様体の幾何学とquiver多様体の幾何学の関係の解明の問題に着手したい.現在得られている成果は,全て結晶基底という,ある種組合せ論的対象を途中に介在させる形で関係が記述されている.本研究の目的は,これをより幾何学的な立場から再構成し,上記2つの幾何学の関係をより直接的に解明することにある. (2) アフィン型Mirkovic-Vilonen凸多面体の理論との関係:Bauman-Kamnitzer-Tingleyによる,アフィン型Mirkovic-Vilonen凸多面体の理論と,研究代表者による研究との比較を行う.前者はアフィン量子群のPBW型基底の理論(Beck-Chari-Preesleyによる)と,アフィン型前射影代数の表現論をその基礎に置いており,アフィン型PBW基底の理論と,研究代表者の研究成果との関係の解明が鍵となる. (3) 代数群の表現論との関係:今年度に行ったコンピュータによる計算実験をさらに先まで進め,より多くのデータを収集する.これにより,現在得られているいくつかの予想の検証を行う.同時に,得られた計算データを詳しく分析し,そこから得られる予想の数学的証明に取り組む.ただし,上述のように得られた予想は当初考えもしていなかったものなので,何らかの具体的な成果が得られるまでにはある程度の時間がかかると予想される.このテーマに関しては,次年度の課題というよりは,本研究課題の研究期間の全体を通じて取り組むべき問題であろうと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の「今後の研究の推進方策」にしたがって,各テーマごとに分けて説明する. (1)について:主に連携研究者である内藤(東京工業大学)と協力しながら進める.内藤は勤務地が近く,議論もし易い.また,6月にこのテーマに関連した国内研究集会の開催を予定している.同時に,すでにほぼ完成している「結晶基底の幾何学的理論とそれに付随する組合せ論」に関する成果の発表を行って,関連する研究者との意見交換を行う.この研究集会の開催にあたり,数名の関連分野の研究者を招聘する予定で,そのための旅費・滞在費・講演謝金に本研究課題の資金を使用する予定である. (2) について:Bauman-Kamnitzer-Tingleyによるアフィン型Mirkovic-Vilonen凸多面体の理論と,研究代表者による研究との比較を行う.上述の通り,この理論はアフィン型前射影代数の表現論をその基礎の1つに置いているが,本研究課題の連携研究者である伊山(名古屋大学)は,この方面の世界的権威である.当然,伊山と協力しながら研究を進めていく予定だが,伊山と研究代表者は本務地が離れているため,直接会って議論することが難しい.学期中は電子メールを用いて議論を行っていく予定だが,比較的時間の余裕がある夏期休業の時期を中心に,どちらかの本務地で研究打ち合わせを行う予定である.そのための旅費・滞在費に本研究課題の資金を利用する. (3) について:次年度はコンピュータによるデータ収集が主な作業になると考えている.現在,所属研究機関の計算機を用いて計算実験を行っているが,さらに多くのデータを収集するためには,現有機器だけでは不十分になることが予想される.必要に応じて計算機環境をより高度な計算が可能になるよう整備していく必要があるが,そのために本研究課題の資金を利用する.
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