研究課題/領域番号 |
24540008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 義久 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (20294522)
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キーワード | 量子群 / 結晶基底 |
研究概要 |
今年度に行った研究は以下の通りである. (1) 結晶基底の幾何学的表現論とそれに付随する組み合せ論:アフィングラスマン多様体の幾何学に起源を持つMirkovic-Vilonen凸多面体との関係を調べ,以前研究代表者自身によって得られていた成果を大幅に精密かした.この成果は欧文専門誌に掲載済みである. (2) 代数群の表現論への応用:A_n型Schubert多様体に付随するD-加群の特性多様体に関する研究を,昨年度に引き続き行った.昨年度までに得られていた結果は,nが7以下の場合に特性多様体を完全に決定するというものであったが,今年度はn=8の場合にまで結果を拡張することに成功した. (3) 量子座標環の表現論と量子包絡環のPBW型基底について:上記2つが昨年度からの継続の研究テーマであるのに比べ,これは今年度に新しく得られた成果である.量子座標環は量子包絡環の双対に当たる概念であるが,その表現論に関しては,量子包絡環のそれに比べてあまり研究が行われていない.このような状況の中で,国場-尾角-山田は3次元可解格子模型の研究を動機として,テンソル積表現と呼ばれる量子座標環の基本的な既約表現の間の基底の変換行列が,量子包絡環のPBW型基底の変換行列と一致することを証明した.この研究に触発されて,筆者は『なぜ2つの変換行列が一致するのか?』という問題に関し,その表現論的な意味付けを与えることに成功した,さらにその応用として,A型の場合に,2つのPBW型基底間の積に関する明示公式を得た.幾何学的に翻訳すれば,この明示公式は箙多様体上の群作用に関する軌道上の定数層同士の接合積を考えた時,それがどのように書かれるか?という基本的な問題に解答を与えたことになる.この結果に関しては,現在論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると考えている. (1) 代数群の表現論への応用について:当初計画案に基づき,主に計算機実験を中心に研究を行った.その結果,1年目に得られた成果をより次元の高い場合に拡張することが出来た.より次元が高い場合の具体例を計算するにあたっては,計算機実験だけでは限界があることも明らかになり,この点を埋めるために,いくつかの理論的整備も行った.また,この結果は1年目に得られた予想をサポートするもにもなっている. (2) 量子座標環の表現論に関して:量子包絡環のPBW型基底の理論の応用として,今年度から新たに研究を行った.上述のように,これは国場-尾角-山田による可解格子模型の研究に端を発するものである.量子座標環を研究することは当初計画案には含まれていない内容ではあるものの,本研究は量子包絡環の理論の可積分系への応用をテーマとしてあらかじめ組み込んでおり,範囲を逸脱するものではない. 以上,当初の計画案通りにある程度の成果が得られたこと,計画案作成時には考えていなかったような新しい応用が得られたことの2点を踏まえ,研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
各テーマ毎に分けて記述する. (1) アフィン型Mirkovic-Vilonen凸多面体の理論との関係:Bauman-Kamnitzer-Tingleyによる, アフィン型Mirkovic-Vilonen凸多面体の理論と,研究代表者による研究の比較を行う.これは本来,昨年度に行う予定の内容であったが,量子座標環の表現論に関して当初想定していなかった進展があったため,昨年度中に十分な時間を取ることが出来なかった.今年度はこのテーマにも多くの時間を割いて研究を行いたい. (2) 代数群の表現論との関係:近年,研究代表者がこれまで行って来た方法(=箙多様体上のD-加群を用いる方法)と,代数群のモジュラー表現論との関係がWillamsonらによって明らかにされつつある.特に,本研究課題遂行中に研究代表者によって得られたA型シューベルト多様体に付随するD-加群の特性多様体の具体形は,対応する代数群のモジュラー表現論に現れる重要な定数と(少なくとも次元が低い場合には)非常に密接な関わりがあることが明らかになった.これは,現状ではまだ具体例の計算に基づいた現象論に過ぎないが,この点を理論的に明らかにして行きたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年11月末に,公務中の怪我(右ふくらはぎの肉離れ)のため,一時は歩行不能な状態になってしまった.医師による診断の結果は,全治3週間というのもので,相談の結果,予定していた海外出張(渡航先は中国・上海)を取りやめざるを得ないとの判断に至った.この変更は全く想定していなかったものであり,また時期が年度末に近かったこと,さらには変更の理由が研究代表者の健康上の問題であったことにより.新たな出張等を行うことが出来ず,予定通りに予算を使うことが出来なくなってしまった.次年度使用額が生じてしまったのは,この理由に依る. 今年度は京都大学数理解析研究所において,幾何学的表現論をテーマとする年単位のプログラムが実施予定である.このプログラムに関連して,本研究課題のテーマと深く関連する多くの国外研究者が京都に来日予定なので,それに合わせてこのうちの何人かを東京にも招聘し,本研究課題遂行のために役立てたいと考えている.昨年度に使い切れなかった予算に関しては,このための資金に充てる予定である.招聘する人選に関しては,現在候補者を選定中で,京都側と具体的な交渉を進めている最中である.研究代表者の怪我という,予期せぬ事情から偶然発生した事象ではあるが,余った予算の使い道としては,妥当な案であると考えている.
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