研究課題/領域番号 |
24540009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻 雄 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (40252530)
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キーワード | 整数論 / 数論幾何学 / p進Hodge理論 / D加群 / Higgs束 / perverse層 |
研究概要 |
p進perverse層のp進Hodge理論の研究.平成24年度までの研究により,単純正規交叉因子から定まるstratificationに沿って特異点をもつp進エタールperverse層についてのcrystalline層の概念とfiltration Frobeniusつき数論的D加群の圏への忠実充満関手についての理論は完成していた.この理論はlogつきの各stratum上の局所系についての理論の「張り合せ」により構成された.今年度はperverse層と数論的D加群の大域的コホモロジーの各stratum上の局所系の言葉による記述方法を確立した.当初の計画では,D加群のコホモロジーのsimplicialな被覆を用いた議論は困難と思われ別のアプローチを考えていたが,局所系の言葉による記述を得たことで,この問題が解消された. p進Simpson対応の研究:平成24年度までの研究成果である過収束Higgs isocrystalに対応するFaltings site上の層の構成とそれらのコホモロジーの比較に関する論文を完成させた.その過程においてA. AbbesとM. Grosの変形torsorを用いた別のアプローチとの比較も完成させた.過収束Higgs isocrystalに対応する一般化表現の特徴付けについてもSenの理論の一般化を用いて研究した.本科研費により平成25年9月にフランスのIHESを訪問した際,これらの問題についてA. Abbes,M. Grosと研究討論を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画にあった悪い退化をもつ場合のp進Hodge理論の研究に進展はなかったが,一方でp進Simpson対応に関しては平成26年でに計画されていたコホモロジーの比較や関連する問題について計画以上に研究が進展している. p進perverse層のp進Hodge理論の研究について.当初の計画では数論的D加群のコホモロジーにsimplicialな被覆を用いた議論を適用することは困難と考えていたが,数論的D加群のコホモロジーを定義するde Rham複体の張り合せデータを用いた記述を考察することにより,この困難が克服された.これは当初の予想を超える進展であるといえる.さらにcrystalline perverse層と数論的D加群の対応を通して,上記の記述のperverse層 における類似を考察することにより,perverse層でも同種の結果を得ることに成功し,コホモロジーの比較の研究の主たる困難は克服できた. p進Simpson対応の研究について.過収束Higgs isocrystalに一般化表現(Fatlings site上の層)を対応させる忠実充満関手やコホモロジーの比較は完成していたが,この関手の像を決定するという基本的問題が未解決である.Faltingsの論文にこの像の決定について述べられているが,その証明にはギャップがある.Abbes, Grosの論文では,ある仮定がみたされれば曲線上の場合に像が決定できるという,弱い結果が述べられている.9月のIHES滞在中のAbbes氏との研究連絡をきっかけとして,Faltingsの論法,Senの理論の一般化,周期環を用いた関手の構成をうまく組み合わせることにより,このギャップを埋めるアイデアを発見したことは大きな進展である.
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今後の研究の推進方策 |
crystalline perverse層とfiltration Frobenius付き数論的D加群のコホモロジーの記述に関する平成25年度の研究成果をもとに,コホモロジーの比較定理(局所系の場合のFatlingsの定理の一般化)の証明を完成させる.また平成25年度に得たアイデアをもとに過収束Higgs isocrystalに対応する一般化表現の特徴付けを完成させる.過収束ではないHiggs束についても,代数曲線上ではFaltingsの理論がある.Ogus-Vologdskyによる正標数におけるSimpson対応の類似においては,p曲率の冪零性が過収束性に対応する.最近,T.-H. ChenとX. Zhuにより,簡約代数群GについてのG-Higgs束のmoduliとそのHitchin fibrationを用いて,p曲率が冪零でない場合の対応の構成が与えられた.このG-Higgs束のmoduliの視点から,上記のFatlingsの理論の再解釈およびその高次元代数多様体への一般化の可能性について考察する.また悪い退化を持つ場合のp進vanishing cycleの数論的D加群の視点からの研究を引き続き行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究のために必要な図書等の購入が当初予定より少なかったため. 研究遂行のために必要な図書・計算機関連の物品の購入,研究打ち合わせ・研究に関する情報の収集・研究成果発表のための旅費として使用する.
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