研究課題/領域番号 |
24540015
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
谷川 好男 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (50109261)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 数論的誤差項 / 2乗平均値定理 / セルバーグクラス |
研究概要 |
関数等式を満たすディリクレ級数の係数和から生ずる数論的誤差項について,その2乗平均値問題を研究した.ディリクレ級数としては今後の応用を念頭に置いて,一般化されたセルバーグクラスに属するものを考察した.この問題に対しては, Chandrasekharan-Narashimhan, Hafner, Ivic など詳細な先行研究がある.我々の取り組みが従来のものと大きく異なる点は,彼らが有限型ヴォロノイタイプの表示を用いるのに対して,我々はトングタイプの表示を求めたことにある.この表示は2乗平均値問題に対して非常に有効であり,実際ある条件下で誤差項の2乗平均の漸近公式を得ることができた.特に次数が2と3の場合に詳しく考察した.更に関数等式におけるガンマ因子が異なる場合にも誤差項のトングタイプの表示を導いた.その応用として2次元非対称約数問題における誤差項の2乗平均値定理で従来の評価を大きく改良することができた.以上は海外研究協力者のCao氏とZhai氏との共著論文としてまとめている段階である. 4を法とするディリクレL関数の2における値はカタラン数と呼ばれ, 実に多くの級数表示や積分表示がある.カタラン数を一般化することを動機として 1/sin(t) のモーメント積分を考え, その明示的な表示を導いた.その応用として4を法とするディリクレ指標を持つ多重L値の間の関係式を導くことができた.これは従来の多重ゼータ値の間の関係の類似であるし,かつラマヌジャンが2重級数の場合に扱ったものの一般の長さへの拡張になっている.以上の研究は連携研究者の古屋氏,南出氏との共同研究であり,論文はRamanujan Journal から出版されることになっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究は,非対称3次元約数問題を念頭に置いて始めたが,この場合まず関数等式が従来のセルバーグクラスの範疇にはいらないことに気づいた.そのため Chandrasekharan- Narashimhan や Hafner の一般化されたベッセル関数の漸近式がそのままの形では使えなかった.誤差項に対するトングタイプの表示式を得るため,我々はセルバーグクラスで要請されている関数等式をさらに一般化し,必要となる漸近公式を改めて作り直した.こうして誤差項の表示を導出したが,これは従来の関数等式を完全に含む一般化で, 非常に価値があると考えている.実際2次元非対称約数問題に当てはめてみることによって,誤差項の2乗平均に対する既存の結果を改良することができた.だた3次元以上になると, トングタイプの表示が有効になるには少し条件が必要で, すべてが解決したわけではない.これをどうするかが今後の課題として残された. カタラン数の一般化の試みから, 多重L値の関係式へと話が広がったのは思いがけない成果であった.特にEspinosa-Moll のベルヌーイ関数を使った積分の計算を, 4種類に拡張して求めたのはよかったと思っている.現段階では多重Lの値が少し制限されているのが不満であるので,その制限を取り払うような拡張を考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度からの引き継ぎとして, 非対称約数問題を扱いたい.特に研究の動機となった d(1,1,2;n) の場合を考えていく予定である.誤差項の2乗平均値を求める場合, その主要項には通常は絶対収束する級数が係数につくが,我々の場合は発散していることが一つの大きな問題である.よって25年度の方策としてはまずその発散度を評価することである.この研究は海外の研究協力者である Cao氏, Zhai氏とともに研究を進めていく. 一方,リーマンゼータ関数の微分の係数和に対するヴォロノイ公式についても今年度から研究を開始する.有限型についてはすでに連携研究者の南出氏が完成させているので,ミュールマン型, あるいは24年度にやったトング型などを念頭に置いて研究を進めたい.また約数問題の場合と同様, 誤差項そのものについても上からの評価が重要である.この問題に関しては南出氏がヴォロノイ公式を使ってすでに結果を得ているが,我々は誤差項のチャクラ-ワールム型の表示から出発し, exponent pair を使って評価することを考えている. これは連携研究者の南出氏, 古屋氏と共同で進めていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
上に述べた研究を推進するため,連携研究者の南出氏, 古屋氏とは緊密に連絡を取り合っていくつもりである.そのため, 名古屋大学, 京都産業大学, あるいは沖縄高専で,ほぼ毎月の割合で定期的なセミナーを行い,それぞれの計算を持ち寄って進めていきたい. 8月の夏季休暇には北京に Cao氏, Zhai氏を訪ね,多次元非対称約数問題を議論する予定である.さらに24年に得た誤差項の表示の応用として,それを使った短区間の平均値を求め,誤差項の挙動のより精細な研究を行いたい. 今年度は日中セミナーがある.本会は10月の末に, またその準備会は6月末に開催されると聞いているので,それに参加するとともに,発表できることを希望している. シンガポール国立大学のチャン氏はラマヌジャンの専門家であるが,彼との数学の議論は非常に有用であって,実際今まで3編の論文を共同で書いてきている.今年度はシンガポール国立大学に彼を訪問し, お互いの研究について意見を交換することを考えている.
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