本年度は Higgs 束の代数的理論の構築に注力した。 通常の半安定ベクトル束およびそのモジュライ空間の理論において基礎となっているのは,半安定性が超曲面への制限によって保たれるというMehta-Ramanathan の制限定理,半安定束のテンソル積がふたたび半安定であるという積定理,そして自明な第1チャン類をもつ半安定ベクトル束の第2チャン類は半正であるという Bogomolov 不等式である。このうち,Bogomolov 不等式については,半安定 Higgs 束についても成立することが,ゲージ理論の手法によって調和計量を構成することによって,C. Simpson の記念碑的論文において証明されている。本研究では,これら3つの結果はすべて,半安定 Higgs 束へと一般化できることを,純代数的な手法により示した。 具体的には,まず第一に半安定 Higgs 層に対する制限定理をもともとの Mehta-Ramanathan の方法を拡張することによって示した。次に曲線上のべき零 Higgs 束に対して, Higgs 半安定であるという条件と,底空間を適当な分岐被覆で置き換えたうえで twist とよばれる標準的 Higgs 変形によってもとの束が通常の意味での半安定ベクトル束に変形できることが同値であることを証明し,この結果と制限定理を組み合わせて積定理を示した.また2次元のファイバー空間において類似の Higgs 変形を考えることによって,Bogomolov 不等式も証明した。
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