多項式環を斉次多項式の偏微分で生成されるヤコビ・イデアルで割ってできたミルナー環の一種の捻れ部分とb-関数の根との関係についてのヴァルター氏の結果がどうも納得出来なかったので、計算機を使って色々試してみた結果、定式化が多少誤っているのではないかという結論に至り、その修正を行った上で正しい証明も付け加えた。これはカスピダル有理曲線の場合のミルナー環の捻れ部分の次元に関するディムカ氏の予想ともかなり密接に関係しており、この予想についても随分考えたのではあるが、反例も証明も見つける事はできなかった。ただしそれらと関係して、斉次多項式の特異点が一次元の場合にb-関数の根がミルナー環のヒルベルト数列だけでは決定されない例を発見する事などが出来た。
上の例では斉次多項式の定める射影超曲面の孤立特異点は重み付き斉次特異点ではないのだが、特異点がすべて重み付き斉次孤立特異点の場合には今迄のところすべての計算例においてb-関数の根をヒルベルト数列から決定する事ができる。これが一般にどの程度の仮定の下に成り立つのかは現在まだ研究中であるが、超平面配置のb-関数の根が組合せ不変量ではないというヴァルター氏の例などもこの方法を使って直接確かめる事が出来る。これの良いところはb-関数自体を計算するよりも相当に速いという事で、ヴァルター氏の例などではb-関数を計算する事自体、普通の計算機ではかなり困難な様である。なお、上記の計算および考察にかなり時間を取られたのと、それから以前程は興味を持たれなくなったせいもあって、斉次多項式の定める射影超曲面の特異点がすべて重み付き斉次孤立特異点の場合の極位数スペクトル系列のE2退化の証明は延期となった。
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