研究課題/領域番号 |
24540051
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
伊藤 浩行 東京理科大学, 理工学部, 教授 (60232469)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 正標数特異点 / 野生的群作用 / 群スキーム / Frobenius写像 / Artin-Schreier拡大 / K3曲面 / Enriques曲面 / 疑似乱数生成 |
研究実績の概要 |
A) 標数が2であるEnriques曲面のモジュライ空間の構造研究は、連携研究者であるC.Liedtkeにより最近大きく進展した。これに関し、以下 B) に述べるArtin-Schreier商やFrobenius(純非分離)商との変形理論を応用し、超特異型Enriques曲面の軌跡と古典的Enriques曲面の軌跡との交叉する部分の構造を究明しようと試みた。完全な記述を得るには至っていないが、Artin-Schreier商とFrobenius商との変形理論が応用できる証拠を得た。
B) 昨年度同様、正標数特異点理論の研究に大きく力を注いだ。平成24年度の研究により、3次元標準特異点での病理現象は、2次元有理二重点のモジュライ構造、即ち、変形空間内の正標数特有の構造により引き起こされることが分かっていた。一方、平成25年度の研究により、有限群による商や群スキームによる商で得られる2次元商特異点の構造がある程度究明されていた。本年は特に、有限群および群スキームによる商特異点について多くの例を計算し、標数が2の場合についてそれらが変形によって繋がり、従って Artin-Schreierサンドイッチ特異点とFrobeniusサンドイッチ特異点との変形による関連が見出された。その結果、正標数特異点におけるTautnessの不成立についての数学的な理由が解明された。また、この変形は、平成24年度に研究を行っていた、有理二重点のモジュライ空間内の構造とも密接に関連することが分かった。更に、平面サンドイッチ特異点とは限らない場合、即ち、簡単な特異点によって挟まれた特異点に関しても散発的な例が得られており、今後の総括的な研究が期待される。
C)疑似乱数生成に関し、Artin-Schreier拡大塔の利用により得られているASTについて、上述 B) での変形理論を利用した拡張を試みたが、良い結果は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A) Enriques曲面のモジュライ空間に関しては、連携研究者であるC.Liedtkeにより大きな進展を得ているが、本研究の群スキーム商の変形理論を用いることにより、標数が2の場合のモジュライ空間の超特異軌跡と古典的軌跡の交わりの構造が分かってきた。
B) 正標数特異点に関しては、有理二重点に限っても分類表が得られているが、その背後にある数学的理論については不明な部分が多く、標数0との差異が強調されているばかりである。本研究においては、群スキームによる商という見方から、従来の有限群商による特異点も含む枠組みで商特異点をとらえ、標数が2の場合とはいえ、作用込みの変形による商として商特異点の族をとらえられたことは、今後の正標数商特異点の一般理論への大きな道筋をつけたものと考えられる。得られた結果から、Tautnessの背景も良く理解でき、有理二重点とその背後にある理論の完全理解に向けて大きく進展したと考えられる。
C) Artin-Schreier拡大塔を利用した疑似乱数生成ASTについての進展は、Frobenius写像の利用を考えたが、特に大きな進展には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
A) Enriques曲面のモジュライ空間の完全理解と、K3被覆によるK3曲面のモジュライ空間との関連について、特に、標数が2の場合に研究を行っていく。
B) 正標数では、商特異点とは有限群の作用による商特異点のみならず、特に野生的な場合は、群スキームによる商としてとらえることにより、自然に一般論が展開できることがこれまでの研究で分かった。中でも、正標数2次元有理二重点は基本的な対象であるにもかかわらず、標数0と異なり、その詳細が分からない部分があった。このことは、3次元の標準特異点の分類にも大きな影響を及ぼし、正標数特異点がミステリアスである一因となっている。これまでの本研究課題遂行により、群スキーム作用の変形により野生的有限群商特異点と群スキーム商特異点の統一的な扱いが可能となり、標数2の場合に多くのことが分かった。この方向をより推し進めて、2次元有理二重点は全て、上述の意味において商特異点であることを証明したいと考えている。更に、正標数商特異点の一般論を構築したいと考えている。
C) Artin-Schreier 拡大塔による疑似乱数生成理論について、Artin-Schreier拡大とFrobenius拡大の理論的緊密度を考慮すると、純非分離拡大塔をも含んだ理論があると考えられる。Artin-Schreier理論と純非分離理論との融合の応用として、これを追求していく。また、非ケーラー幾何学に関しても引き続き、散発的な証拠を束ねる理論を模索し続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進展状況を鑑みて、研究集会発表を一つ取りやめ、次年度の研究成果発表用の旅費に組み入れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究成果発表をより多く行う予定。
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