研究課題/領域番号 |
24540052
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
中島 徹 日本女子大学, 理学部, 教授 (20244410)
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キーワード | 代数学 / 代数幾何 / 符号理論 / ベクトル束 / アラケロフ幾何学 |
研究概要 |
当課題は、一般代数幾何符号、即ち代数多様体の幾何学を用いて構成される関数体上のベクトル空間の部分空間の性質を研究する事を目的としている。一方、関数体と代数体の間のアナロジーの思想に基づくArakelov幾何学に於いては多くの代数幾何の結果が算術的多様体でも成立する事が知られている。そこで当年度では、一般代数幾何符号の算術的類似に関する研究を行い、以下に述べる様な結果を得た。 第一に、算術的曲線(即ち代数体の整数環のSpec)上のエルミートベクトル束の算術的切断の評価写像を用いて新しいタイプの誤り訂正符号を構成し、これをArakelov符号と名づけた。この符号は有限体上の曲線から定義されるGoppa符号の算術的類似と見做せるが、異なる標数の有限体上のベクトル空間の直和の部分集合となるため必然的に非線形符号である。GuruswamiとLenstraによって導入された代数体符号は自明な直線束から定義されるArakelov符号の特殊な場合である事が分かる。また高階のベクトル束から定義されるArakelov符号は代数体符号のインターリーブ化と解釈できる事を明らかにした。 第二に、Arakelov符号のパラメーターについての評価式を得る事が出来た。より具体的には、エルミートベクトル束が半安定という条件の下で符号の次元を決定し、更に最小距離の下からの評価式を得た。これらの結果の証明には、算術的Riemann-Rochの公式及びBostによって得られたスロープ不等式が用いられる。更に我々はBostとChenによる半安定なエルミートベクトル束の存在に関する結果を用いてArakelov符号の具体例を構成した。 我々の導入したArakelov符号は従来考察されて来なかった全く新しいタイプの非線形符号であり、今後の研究の進展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度の研究の目的は、ファイバー構造を持つ高次元代数多様体を関数体上の多様体のモデルとして用いることによって得られる一般代数幾何符号の性質を考察する事であった。その過程に於いて今年度は算術的曲線の理論に基づいたArakelov符号の構成が可能である事を発見し、その基本的性質がベクトル束の安定性と関係する事を明らかに出来た。当初の計画では、符号理論とArakelov幾何学の関係を解明する研究を平成26年度に実施する予定であったが、今年度の研究結果により通常の体上の代数幾何のみならずArakelov幾何学まで含めた枠組みで考えると非線形符号まで含む広範囲の符号を代数幾何の手法によって一般化出来る可能性が見えてきた。これは当初の我々の予想を遥かに超える展開であり、代数幾何符号の新しい研究の方向性を指し示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、高次元のファイブレーションを持つ代数多様体Xから定義される一般代数幾何符号の研究を継続して行う予定である。具体的には、X上の直線束Lの体積vol(L)が生成ファイバーへのLの制限から定義される一般代数幾何符号の次元の漸近的振る舞いをどの様に決定するかを明らかにしたい。 第二に、今年度我々が算術的曲線を用いて定義したArakelov符号の性質を詳細に研究したい。特にエルミート直線束の順像を取って得られる算術的曲線上のベクトル束から定義されるArakelov符号に対してその漸近的挙動の性質を研究したい。また、パラメーターが評価可能なArakelov符号の例を与えるために算術的曲線上の半安定なエルミートベクトル束の存在問題についても考察したい。 最後に、Arakelov符号を一般化し、高次元の算術的多様体から符号を定義できるかどうかという問題について考察したい。また、エルミート直線束の体積の算術的類似とこの様な「高次元Arakelov符号」との関係についても研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に於いては、大学の業務の都合により出席を予定していた幾つかの研究集会への参加を取り止めざるを得なかった。そのため当初の計画より旅費の支出額が減少したため、使用できなかった額を次年度に使用する事になった。 平成26年度に於いては、前年度から繰り越した額を8月に韓国で開催される国際数学者会議に参加するための旅費として使用したい。また、国内の研究集会の日程が大学業務と重ならない様に事前に入念に検討して旅費の使用額を適切に決定する予定である。
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