研究課題/領域番号 |
24540052
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
中島 徹 日本女子大学, 理学部, 教授 (20244410)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 代数幾何符号 / Arakelov幾何学 / ベクトル束 |
研究実績の概要 |
現代社会では様々な場面で誤り訂正符号の技術が用いられている。当課題は、代数多様体の幾何学を用いて構成される新しいタイプの誤り訂正符号(一般代数幾何符号)の研究を行うことを目的としている。今年度に於いては以下に述べる様な成果を得た。 第一に、前年度の研究に於いて我々が定義したArakelov符号の高次元化についての結果を得た。我々は任意の算術的多様体上のエルミートベクトル束の算術的切断とArakelov幾何学を用いることにより、新しいタイプの符号を定義することに成功した。この符号は前年度に我々が導入した算術的曲線(即ち代数体の整数環のSpec)上のArakelov符号を高次元の場合に一般化するものである。 第二に、上記の高次元Arakelov符号の有限体上での類似物を定義し、そのパラメーターに関する評価式を得た。通常の代数幾何符号は有限体上定義された代数多様体の有理点に於いて直線束の切断を評価するが、我々はより一般に任意次元の閉部分スキームへベクトル束の切断を制限することによって新しい符号を定義した。特に因子(即ち余次元1の部分スキーム)の場合には、ベクトル束が弱安定性と呼ばれる条件を満たすという仮定の下で符号の最小距離に対する下からの評価式が得られることが分かった。この結果は代数曲線の場合にV.Savinが得た結果の高次元への拡張になっている。特に、我々は幾つかの有理曲面上の弱安定ベクトル束から得られる符号に対してパラメーターの性質を調べることが出来た。 第三に、高次元代数多様体上に弱安定なベクトル束が存在するための幾つかの十分条件を得た。より具体的には、射影多様体上の安定ベクトル束を十分高い次数の超曲面切断へ制限することによって弱安定なベクトル束が得られることを証明した。 今年度に導入した符号は従来全く考察されて来なかったものであり、今後の研究の進展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当課題の目的は、従来考察されて来た代数幾何符号を更に一般化する可能性について考察することであった。当初の計画では、関数体上定義された代数多様体とその上のベクトル束を用いて畳み込み符号の一般化を行う予定であったが、関数体と代数体の類似に関するWeilの哲学に基づいて前年度に開始したArakelov幾何を用いた符号の研究をヒントとして今年度では全く新しいタイプの符号の構成に到達できた。当初の計画からは多少方向性が異なっているものの、幾つかのの新しいタイプの代数幾何符号を定義することが出来たことを考慮すると当研究は順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究に於いて導入した2つの新しい符号に関して以下の様な研究を行う予定である。 第一に、算術的多様体上のエルミートベクトル束から定義される高次元Arakelov符号の性質について詳細な研究を行う予定である。我々は、エルミートベクトル束が適当な安定性条件を満たせば、次数が小さい切断を持たないと予想している。この予想を証明することによって評価写像の単射性を示し、符号の最小距離の評価を行いたい。 第二に、閉部分スキームへのベクトル束の制限から定まる符号に関する研究を引き続き行いたい。特に余次元が1より大きい閉部分スキームの場合に符号のパラメーターの評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度では大学の業務の関係のために予定していた海外出張を取り止めざるを得なかった。そのため、旅費の支出額が当初の計画より減少したために使用完了出来なかった額を次年度に繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度では、前年度から繰り越した額は5月にフランスのリュミニーで開催される符号理論の研究集会AGCT(「数論・幾何・符号理論」)への出席・講演のための旅費として使用する予定である。また、繰越分以外の予算については九州大学および京都大学数理解析研究所で開催予定の研究集会へ出席するための国内旅費と、学術書の図書購入費、日本数学会の会費、ノートPCや文房具等の消耗品の購入費のために支出したいと考えている。当課題は平成27年度が最終年度であるため、入念な計画の下に年度内に配分額全額の使用を完了する予定である。
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