研究実績の概要 |
当研究の目的は、代数多様体の幾何学を用いて構成される新しいタイプの誤り訂正符号(一般代数幾何符号)を導入し、その性質を解明する事であった。当研究の最終年度となる今年度に於いては、以下の様な研究成果を得た。 第一に、関数体上定義された高次元代数多様体Xとその上のベクトル束の安定モデルの存在に関して考察を行った。その結果、ある種の仮定の下ではXを生成ファイバーにもつ非特異なモデル上のベクトル束が適当な豊富直線束に関して安定であればXへ制限したベクトル束もまた安定となる事を証明した。更にこの結果を用いて、次元の計算が可能である様な一般代数幾何符号を高次元多様体上のベクトル束から構成する事に成功した。 第二に、非特異射影多様体上の弱安定ベクトル束の存在に関する十分条件を得た。より具体的には、多様体の接ベクトル束がp-半安定(即ち任意回数のフロベニウス写像による引き戻しが半安定)という仮定の下では直線束のフロベニウス写像による順像が弱安定となることをX.Sunの定理を用いて証明した。この結果により高次のコホモロジー群が消滅するベクトル束の具体例が構成出来るので、今後一般代数幾何符号のパラメーターの評価の改良に役立つと期待される。 第三に、前年度導入した高次元算術的多様体上のエルミートベクトル束から定義される符号に関して引き続き研究を行い、特に算術的曲面上で幾つかの符号の具体例を構成した。 今年度は当研究の最終年度であるので、6月にフランスのLuminyで開催された符号理論に関する国際研究集会AGCT(Arithmetic, Geometry and Coding Theory)および12月に横浜で開催された代数曲線シンポジウムに於いて、今年度までに当研究で得られた成果の内容について発表を行った。
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