研究課題/領域番号 |
24540074
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川村 友美 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (40348462)
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キーワード | 結び目と絡み目 / ラスムッセン不変量 / オジュバットとサボーの結び目不変量 / 絡み目のスライスオイラー数 / ベネカン不等式 / プレッツェル結び目 / 絡み目のコボルディズム |
研究概要 |
前年度までの研究に引き続き,実3次元球面内または実3次元空間内の結び目と絡み目の不変量のうち,4次元トポロジーが深く関わるコンコルダンス不変量と呼ばれるものに注目し,結び目解消数やスライスオイラー数といった古典的な不変量と,結び目フレアーホモロジー理論やコバノフホモロジー理論といった比較的新しい理論との関係について分析した.とくに,コバノフホモロジー理論で定義されたラスムッセン不変量,およびそれに類似した結び目不変量で結び目フレアーホモロジー理論で定義されたオジュバットとサボーの不変量について,ある条件をみたすプレッツェル結び目と呼ばれる結び目に対する決定公式を,前年度までに得られた結果よりも適用対象となる結び目の種類を増やした形として得た.その際,以前研究代表者自身が導いた評価式を適用し,結び目について成立する不変量の鏡像歪対称性を用いた.なおこの評価式は,絡み目のオイラー数を評価するベネカン不等式の類似形であり精度のより高いものである.この研究成果は中途段階で国際会議にて招待講演として口頭発表を行ない,ある程度完成したものを会議録用の論文としてまとめた. プレッツェル結び目の不変量決定公式を導く過程で,前年度末時点では不変量評価式の等号不成立例と思われた例があった.しかし本年度は,その例の標準的なプレッツェル絡み目の結び目射影図をある規則に沿って変形させると等号が成立することがわかった.この発想は他の一般のプレッツェル絡み目に対しての考察への応用の方向性として重要であり,結果の一般化は次年度の明確な目標の一つとなった. 上記の作業に並行して,国内開催の研究集会に積極的に参加したり,若手研究者を招いてセミナー開催を行ったりすることにより,関連する研究情報を幅広く収集した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き本年度も,絡み目のラスムッセン不変量およびオジュバットとサボーの結び目不変量について,ある条件を満たす結び目と絡み目についての決定公式を導く作業が中心となり,交付申請書作成時に予定していた大枠の研究,すなわち絡み目ホモロジー理論の全般,および特異点論,接触幾何,ゲージ理論などとの関連についての検証については,やや滞り新たな成果を得るまでには至らなかった.この点では交付申請書に記載した研究の目的の達成度については低いと評価せざるを得ない. しかし,絡み目のラスムッセン不変量およびオジュバットとサボーの結び目不変量に対する精密化されたベネカン型不等式の誤差の幾何学的意味について分析した結果の一つとして,具体的な不変量決定のサンプルをある条件下での公式として本年度新たに得られたことで,今後これらの不変量の評価式の分析を中心とする研究を継続し発展させる上での重要な手がかりも得た.またこれまでの研究成果をまとめた論文の完成の目途がついた.そういう意味では実りある研究が遂行できたといっても差支えなく,次年度以降の発展の準備が整えられている.従って遅れの程度は軽度と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度初めは,プレッツェル絡み目についてのコンコルダンス不変量決定を最優先課題として研究を継続する.その後は一般の絡み目についての一般の整数値コンコルダンス不変量の評価についての研究を前年度からの継続課題として実施する.以上と並行して,絡み目ホモロジー理論の全般,および特異点論,接触幾何,ゲージ理論などとの関連についての研究も,当初予定よりやや遅れてはいるが継続して遂行する. 現時点での目標達成度が高くないことに関しては,解決すべき数学的問題が存在していることが要因でそのことがこれまでの研究により明るみになったと考えられるため,特別な対策はとらず,当面はとくに大幅な予定変更は行わない. すなわち今後も大枠はほぼ当初予定通り,単独研究として遂行し,研究資料収集および研究打ち合わせを精力的に実施し,それにより研究の妥当性を検証しながら本研究を継続する.得られた成果は途中経過も含めて口頭またはプレプリントなどにて発表し,国内外の多くの研究者による客観的な講評を請うことで,さらに発展させていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
計算機とその周辺機器の管理を含む研究環境整備のための消耗品購入が年度末に必要になることを直前まで想定していた.実際には年度末は,研究成果を論文としてまとめて出版するための準備が研究上の最優先となり,その作業ではそれまでに用意した環境で研究に支障が生じなかったのと,逆に当該年度中の環境変更は研究活動とくに論文作成作業に混乱を招く可能性が高いと判断したため,当該年度中の上記の消耗品購入は見送った.そのために次年度使用額が発生した. 研究成果をまとめた論文の出版の見通しが立ち次第,見送っていた研究環境整備のための消耗品購入として,次年度使用額分の助成金を本来の次年度請求分の一部と合わせて使用する.その他の請求分は当初予定通り,結び目と絡み目のコンコルダンス不変量の幾何学に関連する研究遂行のために,研究資料収集およびその管理のための経費,研究打ち合わせおよび研究成果発表のための旅費,研究成果の論文作成の環境整備のための経費として使用する.
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