研究概要 |
1. Erica Flapan氏(Pomona College), Will Fletcher氏(Stanford University)との共同研究により, 以下を示した. 空間グラフのWu不変量とは, グラフの2点配置空間のある種の同変コホモロジー群(絡み加群と呼ばれる)に値を取る不変量で, 特にグラフが2つの円周の非交和の場合は絡み数に, また5頂点完全グラフ$K_{5}$もしくは6頂点完全2部グラフ$K_{3,3}$の場合はSimon不変量と呼ばれる整数値不変量に一致する. 更に絡み加群から整数加群への準同型写像を介して整数値に落としたものを被約Wu不変量, もしくは一般化されたSimon不変量と呼ぶ. 今回, この被約Wu不変量を用いて, (1) 7頂点完全グラフ及びMobius梯子が内在的キラルであるという事実の単純な別証明を与えた. ここでグラフが内在的キラルであるとは, それをどのように3次元球面に埋め込んでも鏡像対称性を持たないときをいう. (2) Heawoodグラフが内在的キラルであることを示した. (3) 空間グラフについて, その任意の被約Wu不変量を適当に整数倍すると, その空間グラフが含む2成分部分絡み目の絡み数, 及び部分空間5頂点完全グラフ, 部分6頂点完全2部グラフのSimon不変量のある整係数1次結合と一致することを示した. (4) 空間グラフの最小交差数の下界を与えた. 2. 2004年, 2010年に続く第3回空間グラフ理論国際ワークショップ「International Workshop on Spatial Graphs 2013」を東京女子大学で開催し, 研究代表者は組織委員の1人として集会運営にあたった. 日本, 米国, 韓国, 英国から多数の参加があり, 活発な議論が交わされ, 成功裏に終了した. 研究代表者自身も, 講演者として前述の研究成果を発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフの2点配置空間のある種の同変コホモロジー類として定義される, 空間グラフのWu不変量と呼ばれる特性類的な不変量について, その無限巡回群への添加写像による被約化を用いて空間グラフの対称性への応用研究を行ない, 一定の成果を挙げることができた. また, 次年度に向けて, 空間グラフの補空間の基本群から導かれる(ねじれ)Alexander不変量の組織的研究に着手しており, 研究は順調に進展している. 得られた成果は迅速に国内外における研究集会やセミナーで公表している. また, 第3回空間グラフ理論国際研究集会を予定通り開催し, 最新の研究成果発表に加え, 国際的な研究交流を実行することができた. 論文及び報告は, arXivなどインターネット上で随時アクセス可能である.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り, 空間グラフのトポロジーと代数的不変量の研究を推進する. 特に最終年度は, 空間グラフの補空間の基本群から導かれる, ねじれAlexander不変量の組織的な計算方法を確立させ, 更にそれを用いて, 空間グラフの分類問題及び各種対称性への応用研究を実施する. 空間グラフのねじれAlexander不変量は, 空間グラフの近傍同値類の不変量にもなるため, 3次元球面内のハンドル体絡み目の理論の進展への寄与が確実に期待される重要な研究対象である. ねじれAlexander不変量の計算には, 空間グラフの補空間の基本群の線型表現を求める問題が介在するため, 計算機プログラムを実装して対応する. アメリカ及び韓国の研究者を始めとする, 海外の空間グラフ理論研究者たちとの共同研究及び研究交流を, 次年度も続けて行なう予定であり, 実際に研究代表者が海外に渡航する. 得られた成果は, 国内外のセミナー, 研究集会, シンポジウムで随時報告するとともに, 速やかに学術論文にまとめ, インターネット上のプレプリントサーバー(arXiv.org)で公開するとともに, 学術雑誌にて公的に発表する.
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