研究課題/領域番号 |
24540097
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
吉岡 朗 東京理科大学, 理学部, 教授 (40200935)
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キーワード | 複素解析幾何 / 非可換幾何学 / シンプレクティック・ポアソン幾何学 / 力学的幾何 |
研究概要 |
具体的な力学系に対する変形量子化の応用として、古典力学系がリー群作用の簡約化により与えられる場合を研究した。配位空間が単位円周のリー群を構造群とする主ファイバー束の構造を持つとき、そのリー群作用は相空間に拡張される。このリー群作用で不変な相空間上のハミルトン関数は、いわゆるMarsden-Weinsteinの簡約化(reduction)理論により簡約化シンプレクティック多様体上の力学系を誘導する。これは古典力学系の理論であるが、変形量子化理論を用いて対応する量子系に対して簡約化を行う、いわばMarsden-Weinsteinの簡約化理論の量子化を具体的な系に対して研究し結果を得た。配位空間として4次元ユークリッド空間、リー群は単位円周のリー群、リー群作用で不変な力学系は8次元相空間上の自由度4の調和振動子を考える。対応する簡約力学系は水素原子を特殊な場合として含むMIC-Kepler problemである。この8次元相空間上に自然にモイアル積による非可換代数を考えることが出来る。簡約化シンプレクティック多様体上の関数により生成された部分代数に対し、リー群作用の運動量写像により生成される両側イデアルによる同値類をとることにより、簡約化シンプレクティック多様体上の非可換代数が得られる。この非可換代数から簡約化シンプレクティック多様体上の変形量子化を得た。この方法は、形式的べき級数を用いる従来の議論とは本質的に異なるものであり、形式的べき級数ではない変形量子化に対する量子的簡約化はこの結果が初めてであるといえる。得られた結果は専門誌に受理され、掲載予定である。平成25年6月にブルガリアで研究会を共同主催し、本研究計画にかかわりのある海外の研究者と研究討論、情報交換を行った。この研究会をとおして、それぞれの研究者により得られた科学的な知見を論文集にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究により、幾何学的な簡約化の理論を変形量子化による非可換な議論に拡張する具体例を掲げることが出来た。この例はよく知られた水素原子の系を含むMIC-Kepler problemの相空間である。さらに、この方法をSU(2)-Kepler problem およびよく知られた他の古典力学系に適用可能であると予測されるが、これを次年度に引き続き研究していく。このことから、3点の研究目的のうち、第2点目の幾何学的な視点による研究、第3点目の具体的な量子系への応用研究は、かなり達成できたといえ、さらにこれから研究を継続して達成度を高められると予想できる。第1点目の非可換指数関数による様々な関数の非可換化とその関数等式の研究は、現在までは、達成度は半分程度である。理由は、非可換指数関数の積の扱いおよび表示の変換の扱いの部分に技術的な複雑さがあるからである。しかしながら、平成25年度の研究を通じて、2次の非可換多項式の非可換指数関数の取扱いに残された不透明な部分を簡明に扱う方法が見えてきた。これが整理されると今までに行ってきた議論をまとめて達成度を上げることが出来ると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今までに行った、幾何学的な簡約化理論の変形量子化による非可換化を、さらに他の具体的な系に適用する。簡約化前のオリジナルな積と簡約化シンプレクティック多様体上に誘導された積の関係を追及する。2次の非可換多項式の非可換指数関数をラゲール多項式の母関数展開などの収束べき級数を用いた取扱いの研究を行う。研究計画全体のまとめを行うとともに今後の発展的な方向を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
実質的な計算を行う前に、幾何学的構造の考察と全体像の構築を重点的に行い、計算機環境の構築を次年度にまわすこととし、それに伴い、研究交流、発表活動、人件費・謝金、その他の支出が多くはなかったため。 研究用の計算機環境を整えること、研究計画において得られた結果を発表するため、およびさらに発展をさせるための国際交流等に使用する。
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