本研究の1つの目的は、ケーラー錐の幾何および佐々木多様体の幾何の観点に立った研究により、ケーラー幾何における主要問題の1つであるYau-Tian-Donaldson予想の解決を目指すことである。
しかしながら、この予想はケーラー・アインシュタインの場合に、Tian、Chen-Donaldson-Sunらによって解決された。また、佐々木・アインシュタイン多様体についても、同様の主張がCollins-Szekelyhidiにより証明された。
そのため、平成25年度からは、Yau-Tian-Donaldson予想の類似問題として、ケーラー・アインシュタイン多様体上の幾何、特に、ラグランジュ部分多様体のハミルトン体積最小性と、ラグランジュ部分多様体の「幾何学的不変式論の意味での安定性」との関係を定式化し、解決することを目標とした研究を行い、トーリックケーラー多様体のトーラスファイバーに関して一定の成果をおさめてきた。また、平成28年度から、東京大学の二木昭人氏との共同研究により、共形ケーラーアインシュタイン・マックスウェル計量(cKEM計量)の存在問題について新たに取り組んだ。その結果、いくつかの興味深い結果を得ることができた:(1)cKEM計量の存在に関する障害として、cKEM版の二木不変量が知られていたが、それが、ある正規化のもと、体積の第一変分に等しいことを示し、それを用いてHirzebruch曲面の場合に、二木不変量が消えるような正則ベクトル場を新たに発見した。(2)今まで、高次元の非ケーラーなcKEM計量の例は知られていなかったが、任意の次元でその例を構成した。
|