研究課題/領域番号 |
24540114
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
道工 勇 埼玉大学, 教育学部, 教授 (60207686)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分枝マルコフ過程 / 超過程 / 確率方程式 / 数理医学 / 免疫応答 / 腫瘍免疫 / ガン血管新生 / 数理モデル |
研究概要 |
ガン細胞に対する免疫応答の数理モデル構築という第一目的に関して、環境の善し悪しに応じて分枝率が変化するという空間依存的分枝メカニズムに加えて、問題とする局所限定領域におけるランダム場全体が実現値ごとにいっぺんに変化する様相を記述できるモデルを構築した。より詳しく言えば、問題のランダム場を確率的に変動する安定測度という形で与えて、その実現ごとの環境場に対して空間依存的分枝率汎関数を伴う測度値の確率過程、すなわち測度値マルコフ分枝過程(超過程)を構成した。構成に際しては、ラプラス推移汎関数による定式化を利用して、デユアル形式を通して半線形の反応拡散型微分方程式の一意解により対応する測度値確率過程を構成した。またモデル論的に重要な消滅性については、付随するデインキンの意味でのヒストリカル超過程について有限時間消滅性を導出した。この消滅性という性質は、免疫応答によりガン細胞が局所的に駆逐される様相に対応すると考えられていて、応用上重要な概念・現象である。前者の通常の測度値過程(超過程)は確率過程の値域(状態空間)上のランダム測度であるのに対して、付随するヒストリカル超過程は、確率過程のパス(見本路あるいは経路)空間上のランダム測度である。消滅性などの個々のパスの性質により依存的と思われる性質に関しては、後者を利用した方が、その考察や関係式の導出の見通しがよくなる事が多いため今回もその経験的知識に従って考察を進めた。また第二目的であるガンの血管新生に関する確率方程式によるモデル論的記述の問題では、血管新生の先端部のダイナミクスを記述する連立確率方程式を分子生物学およびシステム生物学的考察により導き、その数学的一般化モデルに関する平均原理およびそのゆらぎ(フラクチュエーション)の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の目的に関しては、ガンの免疫応答の確率モデルを設計し、問題の定式化および定性的性質の中でモデル論的にとりわけ重要な消滅性に関する結果を導出することに成功している。他の定性的性質についてはまだ手つかずの状態である。また消滅性に関していえば、オリジナルのモデル(超過程)に付随するデインキンの意味でのヒストリカル超過程に対する有限時間消滅性を証明した。理論的にはヒストリカルなクラスから通常の超過程への射影(プロジェクション)手法により超過程に関する消滅性も得られたことになるが、消滅性の特徴付けが超過程のクラス内で閉じているわけではないので、これ関してもまだやるべきことが若干残っていると言える。第二の目的に関しては、ガンの血管新生における先端部のダイナミクスを記述する確率方程式モデルを設計、導出し、解過程の存在一意生定理の証明およびその平均原理の導出に成功している。またさらにはその揺らぎ量(フラクチュエーション)の解析も行った。具体的には、ゆらぎを数理的な揺らぎ量として定義して、そのゆらぎ過程がみたすべき確率方程式を導出する形でゆらぎ解析を行った。脈管形成と血管新生との分子生物学的相違に関する議論がまだ完全には煮詰まっていない状況である。またモデル自体の記述が数理的に抽象的なレベルにとどまっているため、数値解析などによるシミュレーションを行えるレベルへはほど遠い感があるのは否めない。以上を総合的に判断すると、科学研究費助成事業の申請書および平成24年度学術研究助成基金助成金交付申請書に記した研究実施計画に沿っておおむね良好な進行具合であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
第一目的に関しては、上述した第一モデルに関する有限時間消滅性のヒストリカル超過程に対する結果を見直して、超過程自体に対するより直接的な消滅性の結果の導出を目指す。と同時に導出した第一モデルに関する定性的性質を調べる解析を実施する。とくに「再帰性および過渡性」に焦点をあて、まずその十分条件の導出を目指して研究を進める。モデルの有効性評価のため、将来必ず必要となることから、数値解析の可能性も視野に入れて、ガン細胞に対する免疫応答のシミュレーションの可能性も探る試みも実施する予定である。第二の目的に関しては、元となる血管新生先端部のダイナミクス決定における脈管形成との分子生物学的およびシステム生物学的相違に関する議論を深めて、モデル設計やその定式化を見直して、将来のシミュレーションなどのよる数値解析に向けたより具体的で詳細な数理モデル(確率方程式の導出)の記述を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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